辻村深月がデビュー22周年の節目に渾身の力で書き上げたという帯の言葉に惹かれて手に取りました。25年前の誘拐殺人事件と、現在の新たな事件が繋がっていくという構成が実に巧妙です。 地方都市を舞台に、「噂」という目に見えない炎がどのように人々を焼き尽くしていくのか。被害者すら加害者扱いされるという現代的なテーマが、これほどまでに深く掘り下げられているとは。作者の社会への眼差しの鋭さが伝わってきます。 上巻を読み終わって感じるのは、事件の真実を知りたいという欲望と、その背後にある人間心理への問い掛けです。私たちは本当に何を求めて、大きな事件に魅了されてしまうのか。その問いが随所に散りばめられており、単なるミステリーの枠を超えた傑作だと思います。 下巻への期待で、もう心待ちにしております。年を重ねるほどに、こうした深い問題提起をする小説の価値がわかるようになりました。ぜひ多くの読者に手に取っていただきたい一冊です。
最近登録された他の本の感想
2026年08月09日
最近、週刊誌の書評欄で大きく取り上げられていたので手に取ってみました。直木賞受賞作という肩書きに少し身構えましたが、いやいや、これは面白い。 便利屋を営む多田と高校時代の友人・行天が巻き込まれるちょっとした騒動の数々。一見すると地味な設定ですが、二人の何気ないやり取りがじつに生き生きしている。私も長く社会人をしてきたので、こういう気の置けない関係というものが実に心地よく感じられます。 話題作だけあって、テンポよく次々と事件が降りかかってくるのですが、どれもが無理なく自然に物語に組み込まれている。著者の書きぶりが巧みなのでしょう。歳を重ねると、派手さよりもこういう人情的な温かさが響くようになりますね。 何度も笑わせられました。昨今の小説の中では珍しく、こちらの気分を高ぶらせてくれる一冊。定年後の私にはちょうど良い、手頃で良質な娯楽作品だと思います。
2026年08月03日
最近、テレビやYouTubeで話題の「四毒抜き」の著者による新作と聞いて、さっそく手に取ってみました。80歳にもなると、健康管理がますます大事になってくるもので、この手の実践的な本には自然と興味が湧いてしまいます。 本書は「四毒抜き」の続編とのことですが、今度は逆に「四得摂り」という形で、積極的に摂るべき食材に焦点を当てています。米、魚・貝・肉、旬の食べ物、発酵食品という四つの柱は、私たち世代が昔から大切にしてきた食事の知恵そのもの。それが現代的な視点で整理されているのが実に良い。 巻末の「身体と食の歳時記」は特に秀逸で、季節ごとに何を食べるべきかが具体的に示されています。長く生きてきた身には、こうした季節の巡りと食の関係は心身ともに響くものがあります。難しい理屈ではなく、実生活ですぐに役立つ内容ばかり。定年後の人生をより良く過ごすための、頼もしい一冊だと感じました。
2026年07月25日
直木賞受賞作という触れ込みで手に取った本ですが、これは本当に素晴らしい作品でした。 一絃琴という、ただ一本の弦で奏でられる楽器を題材にした物語です。明治という時代に、土佐の上士の娘が、祖母から受け継いだこの琴に魅せられ、人生を捧げていく様が見事に描かれています。読んでいて感じるのは、女性たちの矜恃と情念の深さ。結婚によって一度は封印された夢を、夫の理解を得て再び花開かせる苗の人生、そして彼女との確執を通じて伝統を受け継いでいく弟子の蘭子。二人の女性の人生が、一絃琴の音色とともに交差していく様は、本当に感動的です。 文庫本というのも嬉しい。手軽に読めるので、何度も手に取りたくなる。明治の女性たちの生き方を通じて、今を生きる私たちが学べることは多いと思います。話題の作品だけあって、読んで損のない一冊。年配の読者にこそお勧めしたい傑作です。
2026年07月20日
最近、インドの古典に関心を持つようになってね。この『マハーバーラタ』の原典訳は、話題になっているというので手に取ってみました。 第6巻は『バガヴァッド・ギーター』の場面から始まり、戦場での葛藤と大将ビーシュマの活躍が描かれています。インド古典の根本的な思想に触れることができるのは興味深いのですが、正直なところ、いささか読みづらさを感じてしまいました。 80年も人生を送ってくると、できれば物語に没入できる文体を好むようになるのですが、この原典訳はどうしても堅牢で、時折立ち止まって読み返す箇所が多い。もちろん、それが正確な翻訳の証であり、価値があることは理解しています。ただ、娯楽として本を読む身からすると、もう少し読み進める喜びがあってもよかったかなと思います。 インド古典に真摯に向き合いたい方には貴重な一冊でしょう。ただ、気軽に物語を楽しみたい方は、別の形式や翻訳版から入られることをお勧めします。
2026年07月01日
長年の人生経験を積む中で、この本の存在は何度も耳にしてきた。ようやく手に取る機会を得たが、80年近く生きてきた自分だからこそ、その重みが余計に伝わってくる著作である。 ナチス強制収容所での経験を綴った本書は、単なる歴史記録ではない。極限の状況で人間とは何かを問い直す思索の書だ。著者が述べる通り、人間は同時に最悪と最善を持つ存在なのだ。ガス室という人類の闇と、その中にあってなお祈りを忘れない精神の輝きが対比される。 世代を超えて読み継がれているのが納得できる。若い頃に読むのと、人生の終盤で読むのでは印象が異なるはずだ。自分も幾つかの困難を経験してきたが、この本の前では局所的に見える。そしてそれでもなお、希望を持つことの大切さが身に沁みる。 新版で加筆されたという点も良い。著者の成熟した視点が加わることで、時間経過による新たな意味付けが生まれている。人生100年時代を迎えつつあるいま、全ての世代に勧めたい一冊だ。
2026年06月14日
孫の就活の話を聞いていて、このSPI対策本が話題になっているというので手に取ってみました。定年後、世間の動きから遠ざかりがちな身としては、こうした時下の話題をキャッチアップするのも悪くないですね。 本書は確かに就職試験対策の定番らしく、売上実績も示されており、信頼性は感じられます。テストセンター、ペーパーテスト、WEBテスティングという三つの方式に対応しているということで、受験生にとっては実用的な一冊なのだろうと思います。 ただ、これは正直なところ、わたしのような高齢者が読んで「ああ、いい本だ」と感動する類の本ではありませんね。実用書としての機能は果たしているのでしょう。問題集としても充実しているのだと思います。けれども、本としての奥深さや、読んでいて心が動かされるような何かがあるかというと、それは期待すべきではないのでしょう。 若い世代の進路支援という役割を果たしている点では評価できますが、わたし自身の読書体験としては、可もなく不可もないというのが率直な感想です。
2026年06月13日
この第16巻も、相変わらず着実なペースで物語が進んでいきました。創価学会の指導者としての人生を描き続けているこのシリーズですが、正直なところ、ここまで来るとやや重複感が否めませんね。 同じテーマが繰り返され、似たような展開が続く。もちろん登場人物たちの深さや葛藤は丁寧に描かれているのですが、80年も生きていると、ある程度の予測がついてしまう。それが良いのか悪いのか、難しいところです。 文庫本という手軽なフォーマットで読めるのは嬉しいことですし、話題の作品をチェックしておきたいという気持ちもわかります。ただ、新たな発見や感動を求める側からすると、少々物足りなさを感じてしまいました。 信仰と人生についての考察は真摯ですし、長く愛読されている理由も理解できます。けれども、個人的には第16巻はこれまでとの違いが薄く感じられました。シリーズの良さは保ちながらも、もう少し新しい視点や展開があれば、より魅力的だったのではと思います。
2026年06月13日
新聞の書評欄で大きく取り上げられていたので、この新版を手に取ってみました。昭和の時代に世界中で話題になった作品だと聞きますが、今読んでも色褪せないというのは本当ですね。 主人公チャーリイの知能が急速に高まっていく過程を、彼自身の記録という形で辿るという仕掛けが見事です。知性を得ることの喜びと、同時に社会や人間関係の複雑さに直面する苦しみが、これほど切実に伝わってくる作品は珍しい。私も人生経験を重ねましたが、この主人公が感じる喜びと孤独の揺らぎに、自分の経験を重ねずにはいられませんでした。 この新版には訳者の追悼あとがきが付いているとのことで、それを読むとまた違う味わいが生まれます。80年を超えて生きてきた身としては、人間の本質について問いかけ続ける古い作品に、むしろ強く惹かれるのかもしれません。まだ読まれていない方にはぜひお勧めしたい一冊です。
2026年06月10日
話題作という触れ込みで手に取ったのだが、正直なところ期待と現実にはずいぶんな隔たりがあった。詐欺師たちと少女の奇妙な共同生活という設定は興味深く、各文学賞を受賞した作品とあって最後まで読み通した。しかし、登場人物たちの心情描写がどうにも腑に落ちない。特に後半、唐突に感動的なクライマックスへ向かおうとするあたり、作為的な仕掛けが透けて見える気がしてならない。 若い世代には新鮮なトリックが面白いのだろうが、こちらは長年いろいろな本を読んできた。そこまで巧妙とは思えず、むしろ急いで畳もうとした印象が残った。文庫版の解説も大げさではないかと感じる。ページをめくるのに疲れてしまい、最後は義務感で読了した次第。話題作だからと言って自分に合うとは限らないということを改めて認識させられた一冊である。
2026年06月10日
孫が生まれたので、どんな絵本を選んであげたらいいか考えていたところ、書店で見かけたこの本がすぐに目に留まりました。うさこちゃんの絵本は昔から親しまれている定番だと聞いていたので、迷わず手に取りました。 実際に読んでみると、本当に素晴らしい。1才からということで、ページをめくる喜びや優しい色合い、シンプルで温かみのある絵が、小さな子どもの心をぐっと掴むんでしょう。4冊セットになっているのも嬉しいですね。 長年本を読んできた私から見ても、物語の構成が実によく考えられています。子どもにとって大切な日常の出来事をテーマに、無駄のない言葉で描かれている。これなら親御さんが何度読み聞かせても飽きません。 いまどきの派手で複雑な絵本も悪くないでしょうが、やはり時代を超えて愛される作品には理由があるんだと改めて感じます。孫との時間がより一層大切なものになりそうです。
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