雄一の本棚
父岸田劉生

父岸田劉生

岸田麗子 中央公論新社 1987年10月1日

感想

劉生という大画家の人間像をこんなに生き生きと感じられるとは思わなかった。娘による手記という立場ならではの、距離感のバランスが秀逸だ。客観性を保ちながらも、親への深い愛惜が随所に滲み出ている。 実は購入前、何人ものレビューを参考にしていたのだが、この本が単なる家族の思い出話に終わらず、画家としての劉生の葛藤や創作の本質に切り込んでいるという評判に惹かれた。読んでみると確かにそうで、特に麗子像をめぐる一連の記述は、芸術と人生がいかに絡み合うかを考えさせられる。 会社人生も後半戦の身として、劉生が人生のさまざまな時期に直面した迷いや決断の話は、他人事とは思えない部分が多い。娘のまなざしを通じて見えてくる、才能ある人間の脆さと誠実さ。古い作品ながら、今読んでも色褪せない人間観察の深さがある。文庫本で手軽に読めるのも良い。

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