読書メモの本棚
感想

直木賞受賞作ということで手に取った一冊だが、これは実に見事な出来栄えだ。昭和初期の上流階級を舞台に、三つのミステリが織りなす物語の緻密さには、自分より若い世代の作家がこれほどの完成度を示し得るのかと、つい感心してしまった。 「鷺と雪」の切なさ、「不在の父」の謎解きの鮮やかさ、そして「獅子と地下鉄」の深さ——シリーズ最終巻だけあって、それぞれが独立した物語でありながらも、どこかで繋がっているのではないかという予感が読む愉しみを増す。昭和十一年という時代背景も巧みに活かされており、当時の社会構造やしがらみが人物の運命に深く影響を与えている様が、静かに、しかし確かに伝わってくる。 八十路に差しかかった身としては、こうした古き良き昭和の香りを持つ作品を読むことで、自分たちが経験した時代への新しい視点を得られるのが何ともいえず心地よい。文庫版で手軽に読めるのも嬉しい配慮だ。話題作として名高いのも納得できる、本当に良い読書体験となった。

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