寡黙な死骸みだらな弔い

寡黙な死骸みだらな弔い

小川洋子(小説家)

出版社:中央公論新社 出版年月日:2003/03/01

中央公論新社 | 2003/03/01

4.50
本棚登録:7人

みんなの感想

感想

最近の文芸誌でも話題になっていたので、手にとってみた。中央公論新社の文庫という点も、ちょうどいい。 この作品は実に不思議だ。一見すると奇想天外な設定が並んでいるが、読み進めるうちにそれらが緻密に編み上げられた迷宮のようなものだと気づく。時計塔のある街を舞台に、死や喪失、そして人間のあり方が静かに問い直されている。 息子を亡くした母の悲しみ、鞄職人が心臓を採寸するという詩的で妖しい情景——こうした一見ばらばらな物語が、実は深いところで繋がっている。連作短篇という形式も巧みで、全体を通して読むと、その構築の妙に舌を巻く思いがする。 長く自営業をしてきたからか、人間関係の機微や心理の奥底にあるものに惹かれる。この著者の清冽な筆致は、そうした複雑な感情を見事に言葉にしている。若い頃とは違う視点で読む小説の面白さを改めて感じさせてくれた一冊だ。

感想

医療の現場でずっと死と向き合っているからでしょうか、この作品に引き込まれて一気に読んでしまいました。 連作短篇集という形式で、時計塔のある街を舞台に、喪失や秘密、そして静かな弔いが描かれています。息子を亡くした女性、心臓を採寸する鞄職人、内科医の白衣に隠された秘密——どれもが心の奥底にしまい込まれた何かを抱えている。筆者の言葉選びが本当に清冽で、痛みや悲しみが決して派手ではなく、むしろ淡々と、でも深く心に届く感じです。 拷問博物館でベンガル虎が息絶えるという場面設定も印象的。一見すると奇想的なのに、読み進むうちにそれが何を象徴しているのか、なぜそこに置かれたのかが見えてくる。医療従事者として、人間の脆さや無常さについて考え続けてきたのですが、この本はそうした思いに静かに寄り添ってくれるような感覚です。 気軽に読める本ではありませんが、だからこそ心に残ります。お疲れ気味の時には向きませんが、落ち着いて読みたい時にはぜひ。

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