短くて恐ろしいフィルの時代

短くて恐ろしいフィルの時代

ジョージ・ソーンダーズ / 岸本 佐知子

出版社:河出書房新社 出版年月日:2021/08/06

河出書房新社 | 2021/08/06

4.33
本棚登録:4人

みんなの感想

感想

河出書房新社の新刊紹介欄で目についた本です。正直なところ、タイトルも装丁も奇想天外で、最初は躊躇しました。でも説明文を何度も読み返すうち、これは只事ならぬ作品だと感じて手に取りました。 正解でした。こんな面白い本は久しぶりです。内ホーナー国と外ホーナー国という設定だけで既に魔法のような世界観なのに、フィルという人物が現れた途端、物語が一気に生命を帯びる。彼の演説シーン、民衆の熱狂ぶり、次々と起こる奇想天外な事件の数々——全てが絶妙なバランスで調和しているんです。 何より素晴らしいのは、このおとぎ話が実は現実を鋭く風刺しているという構造です。権力、狂信、民衆心理といった重いテーマを、こんなにも軽やかに、時に失笑を誘うような荒唐無稽さで描き出す著者の力量には脱帽します。読んでいて思わず笑いが漏れそうになるのに、同時に背筋が冷たくなる不思議な感覚。 64歳になって、まだこんなに新しい読書体験ができるのかと、嬉しくもあり驚きもあります。文庫本というお手頃さもいい。迷っている方には、ぜひお勧めしたい一冊です。

感想

河出書房新社の文庫版を手に取ったのは、装丁のシンプルさと「アメリカ文学の鬼才」という帯の謳い文句に惹かれたからです。政治風刺とファンタジーを融合させた作品だと聞いていたので、期待を持って読み始めました。 設定のユニークさは確かです。内ホーナー国と外ホーナー国という架空の国家構造、そしてフィルという独裁者の台頭を描く話の枠組みは、現代政治への痛烈な批評として機能しています。脳がラックからはずれるたびに民衆を魅了するという表現も、独裁者の支配メカニズムを象徴的に示していて、読み手に考えさせる力があります。 ただ、読み進めるにつれ、その「抱腹絶倒」という触れ込みほどの笑いを感じることができませんでした。風刺としての切れ味は鋭いのですが、どこか距離感があるというか、感情移入しづらい部分があります。おとぎ話としても、物語としての深さに少し物足りなさを感じました。 決して悪い本ではないのですが、期待値と実際の読後感にズレが生まれてしまった、というのが正直なところです。思想書好きの自分としては、もう一段階、読み手の心に響く何かが欲しかった。

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