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ファイア・ドーム(下)

ファイア・ドーム(下)

辻村 深月 小学館 2026年6月5日

感想

話題作ということで手に取った辻村深月の『ファイア・ドーム』下巻だが、これは本当に良い。80を過ぎて商売で得た人生経験が、こういう物語を読むときに活きてくるものだと感じた。 25年前の事件がもたらした傷を、今なお引きずる町の人間関係。その複雑さと、人間が真実とどう向き合うかという問題が、この下巻で見事に収束していく。特に印象的だったのは、誰もが「忘れたい」という感情の中で生きている、というくだり。自分も商売の中で何度も経験した、不都合な出来事をどう処理していくか、その葛藤が痛いほど伝わってくる。 読み終えて、登場人物たちに対する見方が大きく変わった。善悪では片づけられない人間の本質というものが、辻村の手にかかるとこんなにも奥行きをもって立ち現われるのか。上巻から続く物語の終着点として、申し分ない完成度だと思う。世間で話題の理由がよくわかった。人生経験を重ねた読者ほど、この作品の価値を味わえるのではないだろうか。