本と珈琲の本棚
生のみ生のままで 上

生のみ生のままで 上

綿矢 りさ 集英社 2022年6月17日

感想

綿矢りさの新しい作品だと聞いて、手に取ってみました。恋愛小説は得意な作家さんですが、今回はまた新しい領域に踏み込んでいるんですね。 リゾートでの出会いから始まる二人の関係性が、実に丁寧に描かれていて引き込まれました。最初は何気ない会話に見えるやり取りが、じわじわと意味を帯びてくる。その心理描写の巧さはさすがです。恋人との関係と彩夏への感情が交錯する逢衣の揺らぎが、とても人間らしくて好感が持てます。 同性同士の恋愛を描きながらも、根底にあるのは普遍的な「愛する」という感情なんだなと感じさせてくれる。派手さはないけれど、心の動きを丹念に追っていく文体が心地よい。上巻だけで満足できますが、下巻がどうなるのか気になって仕方ありません。 気軽に読める文庫版というのも、このごろの楽しみ方にぴったり。夏の夜に読むのに最適な一冊ですよ。