裕子の本棚
灯台からの響き

灯台からの響き

宮本 輝 集英社 2023年6月20日

文庫本で気軽に読めるかな、と手に取ったのですが、思いがけなく引き込まれてしまいました。 亡くなった妻宛ての古い葉書から始まるこのお話、一見すると静かで地味な始まりなのに、ページをめくるごとに物語が広がっていくのです。主人公が灯台を巡る旅に出るくだりは、私も一緒に旅をしているような気持ちになりました。 人生の後半で愛する人のことを改めて知る、という経験は、私たちの年代だからこそ心に響くテーマだと思います。妻の知られざる過去を追うという設定も、長く一緒にいても相手のすべては知らないのだという、しみじみとした現実を感じさせられます。 著者の描写が丁寧で、中華そば屋の情景や地方の風景がありありと見えるようでした。派手さはありませんが、温かみのある物語で、読んだ後も余韻が残ります。地方紙の連載だったということで、まさに地域に根ざした、そういう良さが伝わってきました。 パート帰りに少しずつ読みたいような、そしてつい一気読みしてしまうような、そんな魅力的な一冊です。