号泣する準備はできていた
新潮社 | 2006/06/28
みんなの感想
直木賞受賞作ということで手に取ってみたが、期待以上の傑作だった。短編集とはいえ、各篇それぞれが見事に完成された世界を持っていて、読み終わるたびに余韻が残る。 特に表題作の「号泣する準備はできていた」は秀逸だ。恋が終わるという万人が経験しうるシンプルなテーマなのに、こんなにも深く心を揺さぶられるとは。濃密だった関係が静かに壊れていく描写は、自分自身の人生経験と重なって、思わず本を置きたくなるほどの余韻がある。 懐かしい記憶を呼び起こす短編もある。「じゃこじゃこのビスケット」の17歳の初デート、初恋の甘さと苦さ。そういった、人生に誰もが持っている小さな物語が丁寧に拾い上げられている。 53年も生きていると、悲しみや切なさについて色々と思うことがある。この本はそうした人生経験を温かく抱きしめてくれるような感覚だ。号泣するほどの悲しみが来てもきっと大丈夫、という作者からの静かなメッセージが、なぜか心強い。普段の気軽な読書時間に、ふと深い感動を与えてくれた一冊。
新聞の書評欄で見かけて、つい手に取ってしまいました。恋の終わりや心の痛みを扱った短編集と知っていたので、少し構えながら読み始めたんです。 ですが、蓋を開けてみると、どの作品も胸に染みるように優しいんですね。濃密な恋が壊れていく悲しみを描いた表題作も、もちろん切実なのですが、それでいて絶望的にならない。むしろ、そういう痛みを経験しながらも、人は前に進むんだという、静かな力強さを感じました。 特に印象的だったのは、若い頃の恋の思い出を綴った作品たち。こちらは懐かしさと、あのころの青臭さが蘇ってきて、思わず微笑んでしまいました。自分自身の人生を振り返らせてくれる作品ばかりです。 文章も読みやすく、短編だからパート帰りの疲れた体でも気軽に読み進められました。つらいことがあっても、きっと大丈夫。そう優しく励ましてくれるような一冊。これからもときどき手に取りたくなる本です。
直木賞受賞作という高い評価に惹かれて手にした一冊だが、正直なところ期待と現実のズレが大きかった。 短篇集とはいえ、恋愛をめぐる感情表現に終始するばかりで、人生経験の厚みや思想的な深さが感じられない。53年も生きていると、感情の揺らぎよりも、そこからどう向き合い、何を学ぶのか、という部分に関心が向く。本書の随所に散見される繊細さは認めるが、それが共感に結びつくまでには至らなかった。 また、短篇ごとの質にばらつきがあるのも難点。傑作と凡作の落差が大きく、全体として統一感に欠ける。装丁や帯文の仕掛けも確かに魅力的だが、それが本の内実を補完するほどではない。 年若い読者には心を打つ作品なのかもしれない。だが、人文書を主軸に読んできた身からすると、文学的な価値よりも「売れている理由」が気になってしまう。もう少し骨太な構想があれば、別の評価もあったのだが。
直木賞を受賞した短編集とのことで、期待を持って手に取りました。恋愛の終わりや人間関係の揺らぎといったテーマが描かれているようなので、自分の人生経験と重ねて読めるかもしれないと思ったのです。 実際に読んでみると、著者の繊細な感性が各編に浮かび上がってくることは確かです。特に表題作の濃密な関係が壊れていく過程の描き方には、心を掴まれるものがありました。ただ、全体を通して読み終えた時の印象としては、正直なところ「いい作品だな」と感じながらも、深く心に残る何かが足りない気がしたというのが本音です。 短編集というフォーマットゆえに、それぞれの物語が完結してしまい、その後の余韻が少なく感じられたのかもしれません。あるいは、加齢とともに恋愛ものへの共感度が変わってきたのか。会社員として日々を過ごしていると、こうした感情に正面から向き合う時間がなくなっているのかもしれませんね。 悪い作品ではないので、恋愛小説が好きな方には十分おすすめできます。ただ私個人としては、もう一工夫あれば、というところです。