はるとの本棚
感想

辻村深月の『凍りのくじら』を読み終わって、しばらく呆然とした。エンジニアという職業柄、論理的な思考を重視しがちな自分だが、この作品はそうした理性の隙間に、不意に感情が流れ込んでくるような体験をさせてくれた。 高校生の理帆子が、図書館で出会った青年との関係を通じて、自分の内面と向き合っていく過程が丁寧に描かれている。藤子・F・不二雄の作品への言及も随所に散りばめられており、創作物がいかに人生に影響を与えるかというテーマが深く掘り下げられている点が秀逸だ。 慎重に本を選ぶ方なので、最初はこれといった確証がないまま手に取ったのだが、読み進むにつれ引き込まれた。物語は複数の視点から構成されており、それぞれのパースペクティブが最後に収束する瞬間の爽快感は、長編だからこそ成立する美学がある。 ミステリ的要素もありながら、本質的には人間ドラマとしての重みがあり、バランスが絶妙。文庫版で気軽に手にとれる価格帯も含めて、強くお勧めできる一冊だ。

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