はるとの本棚
感想

職業柄、論理的に構成された物語を求めることが多いのだが、本書はその予想を良い意味で裏切られた。冒頭の不可解な出来事から引き込まれ、ページをめくる手が止まらなくなる。 主人公が直面する現実と非現実の境界線、そして自分というものの定義について深く考えさせられる。エンジニアとして「問題解決」に慣れた思考回路でも、この物語の本質は論理だけでは解き明かせない。そこにこそ小説の魅力がある。 自分に臆病で世界と折り合えない「若さ」の描写が実に丁寧だ。時間を経た今だからこそ、あの迷い多き時期の心理状態をこうして読み返すことで、改めて気づかされることがある。ミステリとしての骨格がしっかりしていながらも、単なるトリックの謎解きに終わらない思想的な深さが備わっている点が秀逸だ。 読了後、もう一度序盤から読み返したくなった。金字塔と呼ばれる所以がよく分かる、手放せない一冊である。