雄一の本棚
感想

永井龍男の最後の著作という触れ込みに惹かれて手に取った。神田の生まれ育ちから鎌倉での最期まで、人生の主要な地点を短篇でたどっていくという構成らしい。 読んでみると、確かに歴史的価値は感じられる。関東大震災を経験した世代の回想として、当時の東京の風景が生き生きと蘇っている部分は興味深い。特に「神田の生れ」や「関東大震災」といった章では、失われた風景への郷愁がほのぼのと伝わってくる。 ただ、正直なところ、全体的には散漫な印象は拭えない。自伝的エッセイという性格上やむを得ないのかもしれないが、各章が独立しており、全体として一つのストーリーが立ち上がる感覚が薄い。死を覚悟した作家の最後の仕事という文脈を持ち込まなければ、これといった強い印象を受けることもなかったと思う。 収録されている短篇「冬の梢」も含めて、静かで落ち着いた品のある作品集ではあるが、気軽に読むにはやや退屈に感じる部分もある。歴史好きや永井龍男のファンには価値があるだろう。