雄一の本棚
感想

朝井リョウの『正欲』から3年半、待ちに待った新作です。独特の視点で人間関係を描く彼のスタイルはそのままに、今回はまた新しい角度から世界を切り取っている。 新宿の量販店という何でもない日常の場面から物語は始まるのですが、その描写の細かさと不思議な距離感に引き込まれました。主人公の感覚、思考のパターンが徐々に浮かび上がってくる構成は、まるで霧の中から輪郭が見えてくるような心地よさがある。 複数の視点が交錯しながら展開していく話の運び方は、ちょっと追うのに集中力が必要な部分もありますが、その手間をかけるだけの価値がある仕上がりです。自営業で日々いろいろな人間関係に関わる身からすると、人のちぐはぐさ、なすり合いといったものへの観察の鋭さが突き刺さります。 現代社会における欲望や効率、人間関係のあり方について、問い直させられる一冊。朝井リョウらしい知的で挑発的な世界観を存分に味わえました。