雄一の本棚
劇場という名の星座

劇場という名の星座

小川 洋子 集英社 2026年3月5日

感想

帝国劇場が一時休館となるという報道を見たとき、ふと手にしたこの作品。正直なところ、劇場という舞台を舞台にした小説に、どれほどの奥行きがあるのか慎重に考えていたのですが、これは見事に予想を上回りました。 複数の人物の視点から綴られる連作的な構成が、劇場という空間の多層性を見事に表現しています。盲目の父の残したパンフレット、劇場に棲む少年、幸運の椅子の伝説——それぞれの断片がモザイク模様を描き、やがて全体像へと収束していく。その緻密さと優美さに引き込まれました。 ページを重ねるごとに気づかされるのは、劇場という建造物がいかに多くの人生ドラマを内包してきたか、という根本的な問い。光と闇、生と死といった普遍的なテーマが、決して説教的にならず、静かに迫ってきます。五十年以上この世を見てきた身としては、人生の終盤に差し掛かった今だからこそ、この作品の深さが胸に染みます。 帝国劇場への愛情と敬意に満ちた、しかし決して感傷に流れない。そうした大人の誠実さが、全編を通じて感じられました。

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