平野啓一郎の「ある男」を読み終わりました。前作「マチネの終わりに」も良かったんですが、これはそれ以上ですね。 夫だと思っていた人が実は別人だったという設定だけで十分なドラマなのに、著者はそこからさらに深く、人間が他者を愛するということの本質に迫っていく。年を取ると、こういう問い掛けには心が揺さぶられます。 弁護士の視点から事件を追いながら、妻・里枝の心情も丁寧に描写されていて、ページをめくる手が止まりませんでした。特に後半、真実が明かされていく部分のサスペンス性と、その背後にある人間ドラマのバランスが見事です。 気軽に読む小説としては少し重めかもしれませんが、読む価値は十分にあります。人生経験を積んだ身としては、この作品が問い掛ける「愛とは何か」という問題が、他人事とは思えずに響いてきました。久しぶりに読後の余韻に浸りたくなる良い一冊でした。