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たゆたえども沈まず

たゆたえども沈まず

原田 マハ 幻冬舎 2020年4月8日

感想

歴史小説というのは、知っている史実の中に新しい人物関係を見出す喜びがあるものだ。この作品もそれを存分に味わわせてくれた。パリの美術界という華やかな舞台を背景に、浮世絵商・林忠正とゴッホという実在の人物たちが織りなす物語。何度も耳にしている名前だが、こうして彼らの出会いと交流を丁寧に描かれると、全く新しい視点が開ける。 特に印象的だったのは、各登場人物の矜持と葛藤だ。異国で自分たちの美を売り込もうとする忠正の信念、そして認められない苦しみの中でも創作に向かい続けるゴッホの姿。兄を支え続けるテオの献身も含めて、男たちの愛と執念がひしひしと伝わってくる。文句なしに引き込まれ、寝る前のちょっとした時間でも続きが気になって徹夜してしまった。 気軽に読める文庫本としても手頃だし、こういう知的な満足感を得られる作品は、定年が近い身としてはありがたい。人生経験が増してからこそ響く深さがあると思う。