一郎の本棚
感想

短篇集を手にする際は、レビューをかなり念入りに確認する方なのですが、この作品はそうした慎重さが報われる一冊でした。 ナポレオンへの妄執に取り憑かれた男たちを描く表題作から始まる13篇。一つ一つが驚くほど完成度が高く、たった数十ページの中でキャラクターの内面を鮮やかに浮かび上がらせています。特に印象的だったのは、作者の観察眼の鋭さ。人間の矛盾や歪み、ちょっとした違和感を日常の中から丁寧に掬い上げ、それが物語の中でどう転がっていくのか—その運びが実に巧妙です。 直木賞受賞作だけあって、文章のクオリティも申し分ありません。説明的にならず、暗示的に読み手を引き込む筆さばきは、読んでいて新社会人の自分にも勉強になるほど。収録される「来訪者」など、後味の良さと深さのバランスが絶妙で、読み終わってもしばらく考えさせられました。 新書判のコンパクトなサイズも魅力。通勤中や休憩時間にさくさく読み進められるのに、内容の濃さは全く損なわれていない。短篇の傑作集を探している方には、本当にお勧めできます。

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