わたくし率 イン 歯ー、または世界

わたくし率 イン 歯ー、または世界

川上 未映子

出版社:講談社 出版年月日:2010/07/15

講談社 | 2010/07/15

4.00
本棚登録:4人

みんなの感想

感想

芥川賞候補作という触れ込みに惹かれて手に取った一冊。正直なところ、期待と現実のギャップを感じてしまいました。 表題作「わたくし率 イン 歯ー、または世界」は、歯という身体の一部を軸に哲学的なテーマを掘り下げるという、なかなか野心的な試み。著者の独創的な文体は確かに目新しく、リズミカルな表現には引き込まれる瞬間もあります。ただ、その斬新さが時に独りよがりに感じられてしまい、読み手を置いていってしまう印象が拭えません。 歯科助手への転職、恋人との関係、未来の子どもへの想い——複数のテーマが絡み合いながら展開していくのですが、各要素の繋がりが必ずしも明確ではなく、読み終わった後に「結局、著者は何を伝えたかったのか」と首を傾げてしまいました。 新社会人の身としては、もう少し物語として整理された作品の方が、腑に落ちやすかったかもしれません。実験的な文学に挑戦する価値はありますが、万人向けではない一冊だと感じます。

感想

芥川賞候補作という肩書きに惹かれて手に取った一冊だが、予想を大きく上回る面白さだった。 「歯で考える」という一見奇想天外なコンセプトを、著者は驚くほど自然に、かつリズミカルに紡ぎ出している。歯科助手として働く主人公の日常を通じて、人生における思考と感情の在り方を問い直す――こうした哲学的なテーマが、決して堅苦しくならず、むしろユーモアと温かみを持って立ち現れてくる。 管理職として日々論理的思考を求められる立場にある身としては、「人間はどこで本当に考えているのか」という問いかけが深く響いた。脳ではなく歯で思考するという設定の奇抜さの中に、実は人間の本質に迫る洞察が隠されている。恋人への想いや生まれてくる子への日記という個人的な営みが、普遍的なテーマへと昇華していく過程は秀逸だ。 話題性だけで売れている本も多い中、この作品は話題性と芸術性が見事に両立している。現代文学の可能性を感じさせる傑作であり、今後の著者の活動も大いに注視したい。

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