本男の本棚
虹の谷の五月(下)

虹の谷の五月(下)

船戸与一 集英社 2003年5月25日

感想

直木賞受賞作ということで手に取ってみたんだが、これは本当に素晴らしい。フィリピンのセブ島を舞台にした冒険小説とのことで、最初は気軽に読み始めたのだが、一気に引き込まれてしまった。 14歳の少年トシオが、祖父と共に闘鶏を育てながら過ごす日々。その平穏な生活が、やがて政治的な陰謀と暴力の渦に呑み込まれていく。少年が経験する怒り、喜び、別れ、そして成長。こうした普遍的なテーマが、異国の風景と文化的背景とともに描かれることで、一層深い感動を呼び起こす。 下巻に入って物語の緊張感は最高潮に達する。複雑に絡み合う人間関係、避けられない運命との衝突。作者の筆致は冴えていて、場面場面が鮮烈に浮かび上がる。自営業で人生経験をそこそこ積んだ身としても、この少年の心の揺れ動きはよく理解できた。 気軽に読むつもりが、深く考えさせられる傑作だった。文庫本だからどこへでも持ち運べるのもいい。同じ著者の作品も読んでみたくなった。