本男の本棚
よき時を思う

よき時を思う

宮本 輝 集英社 2026年1月19日

感想

宮本輝の作品は昔からよく読んでいるが、この「よき時を思う」は特に心に残った。90歳の祖母が晩餐会を開くという設定だけで、もう引き込まれてしまった。 戦争の時代を生きた女性の人生が、静かに、だが確かに描かれていく。祖母・徳子の秘められた過去と、それを辿る孫・綾乃の視点がうまく交差する構成になっている。読みながら、自分たちの世代が経験してきた時代の重みを改めて感じた。 何より良かったのは、この本が過去の悲しみだけに留まらず、「光あふれる未来」へと向かう視線を持っていること。一流のシェフと食材で紡がれる晩餐会というモチーフも素敵だ。家族が集う食卓という、ごくごく当たり前だけど大切な時間の価値が、しみじみと伝わってくる。 文庫本として手頃なサイズながら、読了後の満足感は大きい。自営業で多忙な日常の中でも、少しずつ読み進められるのが気に入った。気軽に、だけど深く考える、そういう読書の時間をくれる一冊だと思う。