ななちゃんの本棚
感想

医学サスペンスというジャンルは好きなのですが、この作品はそれ以上の深さがありました。世界初の脳移植という設定に惹かれて手に取ったのですが、単なる医学冒険小説ではなく、「自分とは何か」という本質的な問いが貫かれていることに驚きました。 主人公・成瀬純一が手術後に経験する性格の変化と戸惑いは、とても丁寧に描かれています。フリーランスをしていると、自分のペースや判断が揺らぐことがありますが、この主人公はそれの比ではない、根底からの揺動を味わうわけです。その恐怖と焦燥感がじわじわと伝わってきました。 ただ、慎重な性格なので最初は評価を迷いました。ストーリーの展開が予想と異なる部分もあり、すぐに受け入れられなかったのです。しかし二度読み直すことで、作者の意図がより明確に見えてきた。この本は速度を求めていない。ゆっくり、主人公とともに謎を追う読書体験を推奨しているのだと気づきました。 中年になると、人生選択への後悔や自分の変化に直面することもあります。そうした読者にとって、この作品は鏡となる可能性があります。決して楽しいとは言えませんが、考えさせられる良書です。

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