ななちゃんの本棚
感想

実際の支援学校での経験をもとに書かれたというこの作品、慎重派の私も迷わず手に取ってしまいました。そしてその判断は完全に正解でした。 ダウン症の青年けんちゃんを中心に、彼との出会いが周囲の人々をどう変えていくか。五つの視点から綴られた連作形式で、それぞれのエピソードが複雑に絡み合っていく構成が秀逸です。けんちゃん本人の視点ではなく、周りの大人たちの戸惑いや葛藤、そして成長を丁寧に描いている点が、この本の本当の価値だと感じます。 著者が実際に支援の現場にいた経験が生きており、施設の雰囲気や職員の心理描写、生徒たちの人間関係が極めてリアルです。障害を「かわいそう」として消費するのではなく、ひとりの人間との関係の中で何が起こるのかを静かに問い続けている。47年生きてきた私にとって、仕事や人間関係で疲弊していた心が確かに揺さぶられました。重いテーマながら、決して説教的でない。むしろ温かみすら感じさせる傑作です。