むしの本棚
感想

三島由紀夫の最後の長編『天人五衰』をようやく読み終わった。正直なところ、これまで三島作品に苦手意識を持っていたのだが、この本は違った。 豪華絢爛な世界観と、その中に潜む人間の本質的な衝動が絶妙に絡み合っている。登場人物たちが織りなすドラマは、一見すると華麗だが、よく読むと深刻な精神の危機を描いているんだ。エンジニアとして論理的に物事を考える習癖がある自分にとって、むしろそういう混然とした人間の欲望や矛盾を見つめる視点は新鮮だった。 文庫本という手軽なフォーマットも功を奏したのか、通勤時間や休憩時間にコツコツ読み進められた。章立てごとに観点が変わっていく構成も、飽きさせない工夫として感じられた。 終盤の不可思議な展開は、最初は理解に苦しむかもしれないが、そこがこの作品の核なんだと思う。三島という作家をあらためて評価し直すきっかけになった一冊だ。