そうたの本棚
感想

道尾秀介の新作『I』は、本の読み方そのものに挑戦する仕掛けに惹かれて手に取った。エンジニアの端くれとして、構造設計への興味もあったし、何より「一冊の本の概念を壊す」というフレーズが気になって仕方なかった。 実際に読んでみると、その面白さは予想を上回った。二つの章「ゲオスミン」と「ペトリコール」は、どちらから読むかで物語全体の印象がガラッと変わる。僕は最初Aの順で読み進めたんだけど、読了後に「もう一度違う順で読んでみようかな」という欲求が自然と湧いた。これって実はすごく計算されている。 各章の主人公たちが抱える秘密や葛藤の描き方が丁寧で、一見するとミステリータッチながらも心理描写の深さが光る。データベースのように積み重ねられる情報が、読む順序によって別の意味を帯びる経験は、電子書籍ではなく紙の本だからこそ感じられる特別感がある。 完璧とは言えない部分もあるけれど、こういう遊び心のある仕掛けは好きだ。もう一度別の順序で読むのが楽しみ。

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