ゆーきの本棚
感想

最近、話題の本というのは中身が伴わないことが多いものだが、この『正欲』はそうではなかった。著者の気迫が伝わってくる力強い作品である。 多様性を尊重する時代だからこそ、その言葉の裏側にある矛盾や不都合な真実に目を向けよというメッセージが印象的だ。一見すると善良に見える人物たちが、実は複雑で矛盾した欲望を抱えている。その人間臭さが、ここまでリアルに描かれた長編小説は久しぶりである。 登場人物たちのそれぞれの人生が絡み合い、やがて予期しない形で繋がっていく構成の巧みさもすばらしい。読み始めたら最後まで目が離せなくなる。正直なところ、途中で気づかされることが多くて、読む前の自分には確かに戻れない。八十歳になって、こんな深い余韻を残す小説に出会えるとは思いませんでした。 新潮社の文庫本で手軽に読めるのも良い。話題作というだけでなく、実質ある傑作だと思う。定年後、本をゆっくり味わえる身分になって良かったと感じさせてくれた一冊です。

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