透明な夜の香り
集英社 | 2020/04/03
みんなの感想
最近、書店の話題本コーナーで目にすることが多かったので、手にとってみました。香りという感覚を主軸にした物語という設定は確かに興味深いのですが、読み進めてみると、やや期待と異なる部分が多くありました。 調香師の天才性と孤独という題材は魅力的ですし、登場人物たちの秘密が香りで解き明かされていく仕掛けも、はじめは面白いと感じました。しかし、中盤以降、その香りと人物の心情の結びつきが少々くどく感じられてしまい、物語のテンポが落ちてしまったような印象です。 また、二人の主人公の関係性の進み方も、やや急ぎ足で唐突に感じる場面がありました。もう少し丁寧に描き込まれていれば、より深い感動があったのではないでしょうか。 話題作ということで期待を持って読みましたが、八十歳の人生経験からすると、もう少し人間関係の機微がじっくり描かれた作品の方が、心に響くように思います。
最近SNSで話題になっていたので気になって手に取りました。「香り」という一見地味なテーマを中心にした物語ですが、これが本当に引き込まれる。 調香師・朔のもとに訪れるクライアントたちの秘密と、彼自身の孤独がじっくり丁寧に描かれていく構成が素晴らしいです。公務員という職業柄、複雑な人間関係や隠された事情を持つ人たちの心理に引き付けられやすいのかもしれません。この作品は、一人ひとりの背景にある物語を香りというメディアを通して浮かび上がらせていく。その手法が非常に上手い。 特に印象深かったのは、香りが単なる香水ではなく、思い出や感情、人生そのものと結びついているという表現方法。読んでいて「あ、この香り私も知りたい」と思わせてしまう魔力があります。 やや長編で、仕事の合間に少しずつ読み進める感じでしたが、むしろそうやってじっくり味わうのに向いている本だと思いました。話題になっている理由が納得できる、素敵な一冊です。
香りという感覚を通じて人間の深層を描いた作品として、これは秀逸だ。 フリーランスになって十数年、人間関係の複雑さや孤独というテーマには敏感になっている。その目で読むと、調香師・朔という人物の造形がいかに繊細かが伝わってくる。天才ゆえの孤立、他者との距離感、そして香りを媒介とした微かな繋がり——こうした要素が見事に織り込まれている。 著者・千早茜の筆致は丁寧で、香りの描写が単なる官能的な表現に留まらず、登場人物たちの心情や秘密とリンクする仕掛けが素晴らしい。読み進むごとに「なるほど、こういうことか」と納得させられることが何度もあった。 ただし、物語の構造がやや複雑で、複数の依頼人の話が並行して進むため、最初は戸惑うかもしれない。但しそれは弱点ではなく、むしろ意図された効果のようにも感じられる。慎重に読み込む価値のある、層の深い長編小説だ。