直人の本棚
感想

話題になっていた『BUTTER』をようやく読み終わった。率直に言って、この作品は秀逸だ。 梶井真奈子という容疑者の人物像を通じて、現代社会における女性の欲望と抑圧、権力構造の問題を鮮烈に描いている。一見すると犯罪ミステリーのような形式だが、実のところは深い社会派の長編小説である。 週刊誌記者・町田里佳の視点から物語が進んでいくのだが、梶井との接触によって里佳自身がどう変貌していくのか、その心理描写が実に緻密だ。私たちが無意識に受け入れてきた社会規範や美しさの定義といったものが、根底から揺さぶられる感覚を覚えた。 58年間生きてきて、特に職場では「常識」や「秩序」の枠の中で動くことの大切さを学んできた身からすると、この作品の問題提起は正直、心をかき乱される。だからこそ良いのだ。登場人物たちの欲望に忠実に生きようとする姿勢、それに引きずられていく周囲の変化を見つめることで、自分自身の人生観すら問い直させられた。 文章の質も高く、読みごたえがある。現在進行形の重要な作品として、広く読まれるべき一冊だと思う。