直人の本棚
殺し屋の営業術

殺し屋の営業術

野宮 有 講談社 2025年8月29日

話題沸騰中の一作、手に取った。江戸川乱歩賞受賞というのは伊達ではない。 「殺し屋の営業術」とは何とも挑発的なタイトルだが、単なる奇をてらった作品ではない。ビジネス書のような体裁をした小説という、このハイブリッドなアプローチが実に巧みだ。営業という日常的な活動を通じて、人間の本質に迫っていく。58年生きてきた身としても、組織の中で営業に携わってきた経験が、この物語を読む時の視点を深めてくれた。 何より驚いたのは、主人公の内面描写の緻密さだ。一見無情に見える主人公が、徐々に変わっていく過程が自然で説得力がある。東野圭吾が「読み手の心を掴む力」と評したのも納得だ。現代社会のシニカルさを描きながらも、人間らしさを失わない絶妙なバランス感覚。 ビジネスパーソンなら誰もが感じたことのある葛藤や違和感が、ここまで洗練された形で表現されているのは稀だ。最近の話題作の中でも、これは確かに読む価値がある。