近藤の本棚
ちょっと角の酒屋まで

ちょっと角の酒屋まで

角田光代 オレンジページ 2026年2月18日

感想

エンジニアという職業の関係上、論理的で効率的な文章を日常的に読んでいます。だからこそ、角田光代のこのエッセイ集に出会ったときの驚きと心地よさが格別でした。 本書は「飾らない日常」を徹底的に肯定する姿勢が素晴らしい。冷蔵庫の生姜のカビ、機内持ち込み不可の食材没収、立ち飲みが苦行に感じる矛盾──こうした些細で個人的な出来事を、自分の弱さや躊躇までも含めて丁寧に綴っている。最初は「これで大丈夫だろうか」という慎重さもありましたが、読み進むうちに、この等身大の言葉遣いに引き込まれました。 特に感じたのは、著者が「完璧な人生観」や「教訓」を押し付けないという潔さです。私たちエンジニアは常に問題解決を求められる職業ですが、ここにあるのは「そういうこともある」という静かな諦観と許容。約20年の連載から選り抜かれた文章ということもあり、一編一編の完成度が高く、何度も繰り返し読みたくなります。 日常に疲れた時、背伸びではなく、そのまま座り込むような優しさが欲しい時。そんな時にそっと手に取れる一冊です。