一郎の本棚
粉瘤息子都落ち択

粉瘤息子都落ち択

更地 郊 集英社 2026年2月5日

感想

選評で目にした金原ひとみ氏や岸本佐知子氏の言葉に惹かれて手に取った一冊です。正直、タイトルからは内容が全く想像できなかったのですが、その不気味さというか謎めいた感じが興味をそそりました。 読み始めると、引きこもり状態にある主人公・野中とその周辺の人間関係が、妙なリアリティを持って立ち上がってきます。パワハラ退職後の深い疲弊、友人からの奇妙な提案、九州の実家の事情——これらが絡み合う中で、一見つまらなそうな日常風景が、実は極めて濃密で切実なものとして描かれているんです。 新社会人として働き始めた自分にとって、この作品の「底辺」というテーマは決して他人事ではありませんでした。職場での人間関係、人生の選択肢、親への罪悪感——そうした重いものが、ゲームや自販機での散歩といった軽やかな日常に静かに層積されていく構成が秀逸です。 ただ、展開が予測しにくい部分があり、時々置き去りにされる感覚も覚えたので、すんなり読み進められるタイプの小説ではありません。それでも、本当に久しぶりに「読む快楽」を感じられた、選評の言葉通りの体験ができました。