最近、書店で見かけて気になっていた本だ。発売前に14ヵ国が版権取得したという帯の謳い文句に惹かれて手に取ったのだが、これが大正解だった。 1910年のハレー彗星が降る夜、貴族の館で起きる殺人事件。79歳の毒舌老令嬢と少年院帰りの召使いが探偵役というユニークな設定だけで既に興味をそそられるが、本作の真骨頂はそこからだ。フーダニット、孤島、密室、貴族という古典ミステリの王道要素をきっちり押さえながら、次々と繰り出されるどんでん返しの連続には本当に参った。犯人候補のリスト作りから登場人物の描写の細やかさまで、著者の手腕が光っている。 このクラスの本格派ミステリに久しぶりに出会った感覚だ。会社の同僚にも勧めたくなるような傑作だが、特に我々の世代が好むような古き良き探偵小説の流れを汲みながら、新鮮な趣向を加えた作品として評価したい。シリーズ化されるとのことだが、次巻が待ち遠しい。
最近登録された他の本の感想
2026年06月01日
西野亮廣の新刊『北極星』を手に取った時、正直なところ、この著者がここまで本気で仕事観を語る日が来るとは思っていなかった。34時間で4億8000万円という常識外れの数字の背景にある思考プロセスを、ここまで体系的に記したビジネス書は珍しい。 本書の最大の価値は、具体的な挑戦から得た知見が、単なる成功談ではなく、これからの働き方そのものに対する問い直しになっている点だ。前著『夢と金』から3年。その間に彼が経験したスケールの大きさは日本人のほとんどが未体験の領域であり、そこから引き出された示唆は、規模を問わず多くのビジネスパーソンに響くだろう。 58の身で思うのだが、会社人生の後半戦に入ると、「どう働くか」という問いは避けられない。本書が提示する「北極星」という概念は、判断基準として実用的で、これからの人生をナビゲートする上で参考になる。ただ、著者特有の熱量と理想主義が強いため、現実的な制約との折り合いをどうつけるかは、読み手の工夫が必要だと感じた。話題の著作として、一度は目を通す価値がある。
2026年06月01日
話題作ということで手に取りました。クイズ番組という一見地味なテーマながら、その謎解きを通じて人間ドラマを描く構成は悪くない。確かに推理作家協会賞受賞作というのも納得できます。 ただ、率直に言って期待値より一段下という感じです。クイズの正答に至るまでの論理展開は丁寧に描かれているのですが、中盤以降やや冗長に感じる部分もありました。また、ストーリーが進むにつれて、何度か似たような流れが繰り返されるような印象を受けました。 文庫版に収録された短編「僕のクイズ」は本編とのつながりが面白く、この部分は好評価です。本屋大賞6位という実績も確かですが、個人的には特に光る要素を見つけきれなかったというのが正直なところ。 エンターテインメントとしては及第点ですが、深掘りが足りないというか、もう少し人物の掘り下げがあってもよかったのではないか。仕事の合間に読む分には十分ですが、特に強く誰かに勧めたいというほどではありませんね。
2026年06月01日
最近、映画化作品の原作本を読む機会が増えているが、この『ブラックナイトパレード』は映画ノベライズながら実に良くできている。失敗続きの冴えない男が、黒いサンタに強制的に北極へ連れ去られるという荒唐無稽なプロット。普通ならば警戒するところだが、読み始めるとそのテンポの良さと、キャラクターの魅力に引き込まれる。 人生の停滞感を抱えた主人公に感情移入しつつも、奇想天外な世界観が現実の息苦しさを吹き飛ばしてくれる。個性的な登場人物たちとの掛け合いからは、職場の人間関係についても考えさせられた。仕事とは何か、やり甲斐とは何かといった問い掛けが自然に織り込まれており、決して軽い娯楽作ではない深さがある。 58年生きてくると、得体の知れない不安を感じることも多いが、本書はそうした日常の閉塞感をユーモアとファンタジーで解き放つ力を持っている。映画も気になるが、文章でしか味わえない余韻もある。心が凝り固まった時に手に取りたい一冊だ。
2026年06月01日
大谷翔平選手の名前を見かけて手に取った本ですが、これは本当に良い買い物をしたと感じます。中村天風という人物のことは漠然と知っていましたが、ここまで体系的に彼の教えを現代の悩みに当てはめて解説された本は初めてです。 58年生きていると、人生観も随分と変わります。若い頃の野心とは違う、もっと根源的な幸福について考えることが増えました。本書の「心ひとつの置きどころ」という言葉は、仕事のストレスや人間関係の悩みで揺らぎやすい自分の心に、実に響きます。 特に良かったのは、難解になりがちな哲学的思想を、具体的なQ&Aと実践的なアプローチで解きほぐしているところ。老後貯金やHSPといった現代的な悩みにも触れられており、単なる古い思想書ではなく、今を生きる私たちにとって実用的です。残りの人生をより主体的に、そして穏やかに過ごすためのヒントが詰まっています。仕事仲間にも勧めたくなる一冊です。
2026年06月01日
池井戸潤の新作と聞いて、また話題の本が出たのかと手に取った。箱根駅伝という題材は確かに興味深いし、ドラマ化決定という帯も目に入ってくる。 ただ率直に言うと、期待していた以上のものは感じられなかった。駅伝という競技の熱さや、若い選手たちの青春ドラマとしての要素は十分に描かれている。それでも何かが足りない。もう何十年も生きてくると、こういう熱血スポーツ青春小説に深く没入するのは難しくなるのかもしれない。 テレビ局の編成サイドの描写も入ってくるようだが、そこの部分も含めて、全体的には池井戸潤の既存作と比べると新鮮味に欠ける印象を受けた。同じようなプロット展開、同じような人物造型が繰り返されているような感じがするのだ。 とはいえ、きちんと話は進むし、つまらなくて投げ出したくなるわけではない。上巻を読んだので下巻もおそらく読むだろう。話題作として一度は目を通しておく価値はあるが、特別に推薦するほどではない。そんな一冊である。
2026年06月01日
最近、話題になっていたこの作品をようやく手に取りました。人生経験も多く、社会の不条理にもそれなりに目を瞑ってきた年代として、この本が描く女性たちの怒りと解放の物語には心を揺さぶられるものがありました。 主人公たちの「すみません」と「しょうがない」で自分を縛ってきた人生が、ある瞬間から大きく変わる。その転機の描き方が実に生き生きしていて、読んでいて痛快感すら感じました。特に、モラハラやカスハラといった昨今の社会問題が物語の中で容赦なく描かれているところが良い。単なるエンタメではなく、社会への問題提起として機能しています。 女性へのジェンダー的抑圧、世代による葛藤、そして自分たちの人生を取り戻すことの重要性——これらのテーマが70代の殺し屋という奇想天外な設定を通じて表現されるのです。一見突拍子もない設定かもしれませんが、メッセージの強さは十分に伝わってきました。 世代を超えて、多くの人に読まれるべき一冊だと思います。
2026年05月06日
直木賞受賞作というので手に取ってみたが、これは実に見事な傑作だ。16世紀フランスという時代背景を舞台にしながら、権力に立ち向かう一人の弁護士の姿勢が現代にも通じる普遍的な問題を問いかけている。 何より印象的なのは、国王の不当な要求に対して孤立無援の中で王妃の弁護を引き受ける主人公の決断である。田舎の無名な弁護士が、王妃という絶大な権力を持つ相手のために声を上げるその勇気に、思わず引き込まれた。歴史小説とは言え、正義とは何か、法とは何かという根本的な問いが貫かれているのだ。 文体も清潔で読みやすく、複雑な法廷戦を舞台としながらもテンポよく物語が進んでいく。久しぶりに徹夜してしまったほどの面白さである。人文的な教養が深まるのはもちろん、単純にエンターテインメント作品としても秀逸。話題の本として納得のできる一冊だ。同世代の読者にも強くお勧めしたい。
2026年05月06日
最近、良い随筆集との出会いを探していたところ、この本に辿り着いた。「歓喜」というテーマで薄田泣菫から開高健まで、時代を超えた名随筆を集めた編集に惹かれて手に取ってみた。 読み進むうちに気づくのは、歓喜というものの多様性だ。派手な喜びもあれば、静かな満足感もある。志賀直哉や向田邦子の文章から感じ取れるそれぞれの人生観は、五十八年を生きてきた自分自身を静かに省みさせてくれる。特に吉田健一の「食べものの話、又」など、日常の何気ない瞬間に隠された喜びを丁寧に掬い上げる筆致は見事だ。 何より筑摩書房の文庫本としての装幀が美しい。カバーの装画も品があり、毎日通勤の電車で開くたびに、この本を選んでよかったと思う。一人称という個人的な視点で綴られた文章だからこそ伝わる、人生の豊かさや深さが詰まっている。世の中の流行ばかり追っていた自分にとって、こうした時間を作ってくれる本は本当に貴重だ。
2026年05月06日
孫がいる同僚が持ってきたこのセットを見かけて、思わず手に取ってしまいました。「しろくまちゃんのほっとけーき」というタイトルは昔から知っていましたが、こんな素敵なグッズセットになっているとは驚きでした。 やはり時代とともに、良質な絵本もこうした形で新しい展開を見せているんだなと感心します。ミニえほんとぬいぐるみのセットというのは、小さなお子さんにとって実に理想的な構成です。手に取りやすいサイズ感で、温かみのあるイラストと、あの有名なほっとけーきの場面がそのままぬいぐるみになっているというコンセプトの一貫性も好ましい。 正直に申し上げますと、私自身の世代では子育ての時代は過ぎてしまっていますが、こういった新しい試みが話題になっていることは嬉しく感じます。子どもたちが本を手に取り、その世界を立体的に体験できるという現代的なアプローチは、読書習慣の形成に極めて有効だと思われます。品質も見た目も申し分ない秀作だと評価します。
2026年05月06日
長く続くシリーズをここまで追い続けるのは久しぶりのことだが、このラミジ艦長物語はその甲斐があると感じている。第9巻の今作でも、艦長の揺るがぬ信念と部下たちへの向き合い方が相変わらず秀逸だ。 船乗りたちのドラマというのは、限られた空間での人間関係の深さにこそ本当の価値がある。本書では、長年の航海で培われた信頼関係が試されるエピソードが複数展開されており、読んでいて思わず身を乗り出す場面が何度もあった。作者は装飾的な描写を避け、会話と状況描写だけで登場人物の心情を丁寧に伝えている。 この歳になると、キャラクターの迷いや葛藤がよけいに胸に響く。現実の職場でも似た局面に遭遇することがあるからだ。艦長はどのように決断を下すのか、その過程を見守ることが今の読書の楽しみになっている。 若干、中盤の展開に些か急ぎ足な感が否めないが、全体としてはシリーズの水準を保ちつつも新たな深みを加えたと言えるだろう。次巻への期待感も高まっている。
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