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その話は今日はやめておきましょう

その話は今日はやめておきましょう

井上 荒野 毎日新聞出版 2021年4月30日

感想

定年を控えた年代の友人が何人かいる身として、このタイトルに惹かれました。誰もが想像する「第二の人生」が、実際には予想外のことばかり──その落差が面白く、そして切実に感じられます。 突然現れた青年が夫婦関係に投げ込む波紋を通じて、長年一緒にいた相手のことを実は知らないのかもしれない、という不安定さが丁寧に描かれていますね。直木賞作家らしい人物描写の巧みさで、登場人物たちの微妙な心理の揺らぎが自然と伝わってきます。 同年代の女性として特に共感したのは、妻の視点で見える世界の変化です。何十年も当たり前だと思っていた日常が、ある瞬間から違う色に見える──その戸惑いや複雑な感情が、押し付けがましくなく、でも確かに存在しているんだと読み進めるうちに気づかされました。 終盤に向かうにつれ、人生ってこんなにシンプルじゃないんだなあ、という諦念と温かさが両立する、大人らしい物語だと感じました。読んで損のない一冊です。

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