spring
筑摩書房 | 2024/03/22
みんなの感想
本屋大賞ノミネート作という触れ込みに惹かれて手に取ったのですが、正直なところ期待と現実のギャップに戸惑ってしまいました。 バレエの世界を舞台にした長編とのことで、『蜜蜂と遠雷』のような表現者の葛藤や成長が描かれるのかなと想像していたんです。確かに構想・執筆に10年をかけたというだけあって、バレエの技術的な描写や舞踊の奥深さについては丁寧に紡ぎ出されています。ただ、その丁寧さが時に冗長に感じられてしまい、登場人物たちの思いや対立がどうしても頭に入ってきにくかったんですよね。 公務員という日々の業務が忙しい身からすると、気軽に読める小説を求めているのに、ページをめくるたびに「理解しなければ」というプレッシャーを感じてしまって。もう少し読者を引き込む工夫があれば、この濃密な世界観ももっと輝いたのではないかなと思います。悪い作品ではないんですが、私との相性がいま一つだったというのが正直な感想です。
本屋大賞ノミネート作ということで手に取った『spring』。10年の構想期間を経た作品というだけで、著者の覚悟のようなものが感じられます。 バレエという表現芸術を通じて、一人の天才舞踊家の人生を描いた作品ですが、これが実に奥深い。教員生活が長いせいか、才能と努力、そして時代との出会いが人を形作っていく過程が、強く心に響きました。萬春という主人公の名前自体が「あらゆる季節を抱く」という意味だとは、細かい工夫です。 物語は少年時代から国際舞台での活躍まで、時間軸を巧みに操りながら展開します。「踊る者、作る者、見る者、奏でる者」という複数の視点から一人の人物像が立体的に浮かび上がってくる構成は、『蜜蜂と遠雷』を彷彿とさせながらも、また異なる魅力を放っています。 バレエの世界についての知識がなくても、表現者の本質的な葛藤や美しさが伝わってきます。「俺は世界を戦慄せしめているか?」という問いが、読み進むたびに重みを増していく。教室で教えることの意味を改めて考えさせられた、そんな一冊です。
本屋大賞ノミネート作ということで、いくつか口コミを読んでから購入を決めました。正解でした。 バレエという非日常的な世界を舞台にしながら、天才とは何か、表現とは何かという根源的な問いに向き合った作品です。主人公・萬春の人生を八歳から追っていく構成が素晴らしく、各章で異なる視点から彼の姿が立体的に浮かび上がっていく快感があります。 フリーランスの自分としても、自分の仕事の価値を問い直す主人公の葛藤が響きました。「俺は世界を戦慄せしめているか?」というシンプルながら切実な問いが、読み進むほどに重くなっていく。創作に携わる人間なら、誰もが感じたことのある迷いや不安がそこにはあります。 描写が圧倒的です。バレエの動きを言葉で表現する難しさがあるはずなのに、著者は見事にそれを越えている。十年の執筆期間が納得できるほどの完成度です。 同じ著者の『蜜蜂と遠雷』も読んでいますが、この作品は更に洗練されているような気がします。表現者を描く小説として、これは傑作です。
本屋大賞ノミネートということで手に取った『spring』ですが、期待を上回る傑作でした。 『蜜蜂と遠雷』で直木賞と本屋大賞をW受賞した著者による、10年の構想・執筆という渾身の一作。バレエという一見すると限定的なテーマながら、その表現世界の奥深さに引き込まれます。 主人公・萬春という無二の舞踊家の人生を、関わる様々な人物の視点から描いていく手法が秀逸です。踊り手、振付家、観る者、音楽家ーー異なる立場の者たちの情熱がぶつかり、交錯する様が見事に描写されており、読んでいて自分も舞台の上にいるような臨場感を感じます。 仕事で疲れた日々の中で、人間の創造への執念、完璧を求める情熱、そして「世界を戦慄させたい」という切実な願いを追い続ける主人公の姿に、何度も心を揺さぶられました。43歳の今だからこそ、人生とは何か、表現とは何かを深く考えさせられます。 年末年始の大型連休で一気読みしてしまいました。今年の本屋大賞がどうなるのか、本当に気になります。