lit_diaryの本棚
禁忌の子

禁忌の子

山口 未桜 東京創元社 2024年10月10日

感想

本屋大賞ノミネートという触れ込みと、複数の推理小説の大家からの推薦文に惹かれて手に取った一冊だが、期待に違わぬ傑作だった。 現役医師が執筆した本作は、医療知識の正確さと本格ミステリの緊密なプロット構成が見事に融合している。搬送されてきた自分と瓜二つの溺死体という設定から始まる謎解きは、単なる奇想天外さに頼らず、主人公が着実に真実へ近づいていく過程が丁寧に描かれている。東川篤哉が「これが鮎川賞だな」と確信したというのも頷ける。 特に評価したいのは、登場人物たちの心理描写と葛藤の描き方だ。謎めいた状況下での主人公の揺らぎ、不安定さが生き生きと表現されており、単なる謎解きの快感だけでなく、人間ドラマとしての深さを感じさせる。 ただ、終盤の展開についてはやや観念的になりすぎた感があり、その点で完全無欠とまでは言い難い。とはいえ、デビュー作にしてこの完成度は稀有である。自営業という立場で人事に関わることが多い私からすると、人間の本質や秘密に迫る作品として、実に興味深く読み終えた。