近藤の本棚
感想

論理的思考を要求される仕事をしているからこそ、たまには予想外の展開に翻弄されたいという欲求があります。本書はそうした欲望をしっかり満たしてくれました。 ドキュメンタリー作家の心中事件を題材にした、いわくつきの原稿をめぐる物語。一見すると心中に至るまでの心理描写やドキュメンタリー作家という人物像に興味を惹かれますが、著者はそうした予想の先を用意していました。複数の視点が入り混じる構成、次々と明かされる真実、そして最後の反転。どの情報が信頼できるのか、登場人物たちの証言をどう読むべきかを考えながら読み進める快感があります。 ただ、複雑な構造ゆえに一度の読了では拾いきれない部分もありそう。再読する価値は確実にあると感じます。また、心中という重い題材を扱う作品だからこそ、その真実がどこにあるのかという問題設定の精妙さが際立ちます。慎重に物語を読み解く楽しみを求める人、予想を裏切られたい人には強くお勧めです。