近藤の本棚
博士の愛した数式

博士の愛した数式

小川 洋子 新潮社 2003年8月29日

感想

エンジニアとしてロジカルに物事を考える習性のせいか、感情的な小説は敬遠しがちな私ですが、この作品は違いました。記憶を失った天才数学者と家政婦、そして少年という三人の関係性が、数式という普遍的な美しさを通じて描かれていく様子に、思わず引き込まれてしまいました。 数学という一見難しいテーマでありながら、実際には非常に読みやすく、むしろ優しさに満ちた物語です。登場人物たちの微妙な心情の変化や、記憶という人間にとって最も大切なものについて考えさせられる深さがあります。何度もハッとさせられる場面があり、知的興奮と感情的な感動が同時に訪れる経験は稀です。 著者が数学の美しさを物語の中核に据えながらも、決してそれに溺れず、人間関係の繊細さを優先させる構成力も見事。エンジニア気質の私でも、むしろそういう気質だからこそ、論理と感情のバランスが素晴らしいと感じました。仕事が忙しい時期でも一気読みしてしまうほどの魅力があります。迷わずお勧めできる傑作です。