綿矢りさの新作ということで期待して読み始めたんですが、正直なところ、想像していた輪郭と少しズレた感じがしました。 女性同士の恋愛を描くことで、社会的な制約から解放されていく二人の姿を描きたかったんだろうなというのは伝わってくるんです。特に「常識も世間体も意識から鮮やかに取り払い」という表現には、著者の想いが込められているのが感じられます。 ただ、下巻として物語が進む中で、感情的な説得力がもう少し欲しかった。思わぬ試練が訪れるくだりも、設定としては興味深いのに、そこから二人がどう選択していくのか、その心の動きがやや駆け足な印象を受けました。 愛する人との関係が世間と衝突するときの葛藤って、もっと粘着質に、もっと複雑に描かれてもいいんじゃないかなと。綿矢りさんならそれが得意なはずなのに、という期待値が高かった分、ちょっと物足りなく感じたのかもしれません。 悪い本ではないんですけど、もう一段階、心に刺さるような何かが欲しかったな。そんな読後感です。
最近登録された他の本の感想
2026年06月12日
親戚の葬式で思ったことが、この本を手に取るきっかけになった。延命治療ってほんとに本人のためなのか、それともただシステムの一部なのか—そんなモヤモヤを抱えていた時に出会いました。 著者が2000人以上を看取った緩和ケア医だというのが何より説得力がある。机上の空論ではなく、実際の現場で感じた「死の質」についての深い洞察が詰まっています。特に印象的だったのは「歩けるうちは死にません」というシンプルで力強いメッセージ。健康寿命と実寿命のズレについて、こんなに平易に、そして誠実に語られたのは初めてです。 病院での最期が必ずしも「良い死」ではないこと、むしろ在宅で自分のペースで過ごすことの価値—こういう選択肢があるんだという気づきは、今後の人生観を変えそう。フリーター生活で先行きが見えない私だからこそ、人生の終わり方について真摯に考える必要があるんだと感じました。 医療に対する警戒心ではなく、医療との上手な付き合い方を教えてくれる一冊。多くの人に読んでほしいです。
2026年06月09日
『都市伝説解体センター』シリーズのファンなら手に取る価値のある一冊。断篇集ということで、本編では描かれなかったエピソードを拾い集めた構成になっています。 正直なところ、短編集特有の物足りなさは否めません。各話が短いため、設定の面白さを感じつつも、もう少し深掘りしてほしい場面が何度もありました。特に複数のキャラクターが登場する話では、それぞれの背景や関係性がもっと丁寧に描かれていたら、より引き込まれたのではないかと思います。 ただ、原作の世界観を拡張させるという点では及第点。あざみと美桜の大学時代といった、本編では触れられない時間軸の話が読めるのは嬉しいですし、登場人物たちの意外な一面が垣間見えるのも魅力的です。巻末のステッカーなども、ファンへの心遣いが感じられます。 新書という手軽さで読める分、シリーズの補完材料として機能しています。本編をすでに読んでいるなら、スキマ時間で楽しめる良い副読本ですが、これ単体で新規読者に強く勧めるほどではないというところでしょうか。
2026年06月07日
SNSで「推し」について熱く語っている友人たちを見ていて、自分も何か書き残したいなと思ったのがこの本を手に取ったきっかけです。 正直なところ、「言語化の技術」と聞くと堅苦しいのかなと予想していたんですが、全然そんなことはありませんでした。著者のあたたかい語り口が心地よく、好きなものについて語ることの大切さを改めて認識させてくれます。 特に印象的だったのは、「なぜ好きなのか」という問いに丁寧に向き合うプロセスの大事さです。推し活やオタ活をしている人はもちろん、読書記録をつけたい、映画の感想をちゃんと書きたいという人にとって、実践的かつ読みやすいガイドになっています。具体的な例も豊富で、すぐに自分の推しについて実践できそうな工夫がたくさん詰まっていました。 わずかに、より深い批評的視点への掘り下げがあれば完璧だったかなと感じますが、エンタメと実用性のバランスが絶妙で、この本の狙いを考えるとむしろそれは余計なのかもしれません。好きを言葉にしたい全ての人にお勧めできる一冊です。
2026年06月06日
明治時代の東京を舞台に、古書店を訪れる様々な人物たちのエピソードを綴った作品。日露戦争を控えた激動の時代背景と、本を通じた人間ドラマが見事に融合しています。 印象的だったのは、著者が「本と人との繋がり」というテーマをいかに繊細に描いているかということ。徳富蘇峰や竹久夢二といった実在の歴史人物たちが、それぞれの悩みや葛藤を抱えて書楼弔堂に訪れる。彼らが求める一冊の本が、人生にどんな意味をもたらすのか——その過程がじっくりと丁寧に描かれています。 エッセイと小説の中間のような独特の文体も魅力。歴史的考証の堅さと文学的な優雅さがバランスよく保たれていて、一編一編が短いながらも深い読後感が残ります。 ただ、シリーズもの(約6年ぶりの続編とのこと)ということもあり、前作を読んでいない身としては、いくつか物足りなさを感じた部分もありました。それでも、本への向き合い方を改めて考えさせてくれる素敵な作品です。読書好きなら確実に手に取る価値があります。
2026年06月01日
フランス文学の名作を原書で読む機会をようやく得たので、手に取ってみました。『星の王子さま』です。 子どもの本として扱われることが多いこの作品ですが、読んでみると大人だからこそ響く深さがあります。王子さまが各惑星で出会う人物たちとの対話を通じて、人間の本質的な問題——孤独、愛、責任——が静かに問い掛けられます。 フランス語の原文は意外とシンプルで読みやすく、むしろそのシンプルさが大切なメッセージを際立たせているように感じました。装飾的でない言葉選びが、かえって物語の普遍性を高めているんです。 翻訳で何度も読んだ内容ですが、原書だからこそ味わえる音の響き、表現の微妙なニュアンスが新鮮でした。特に王子さまの視点を通した世界の見方は、今の自分の人生観に問い直しをもたらしてくれます。 文学的な奥行きと、読みやすさのバランスが秀逸。大人の読書家にこそ勧めたい一冊です。
2026年06月01日
長く愛読しているワンパンマンですが、この巻はちょっと微妙な感じでした。タツマキとフブキの関係性の葛藤に焦点が当たっているのは興味深いんですけど、展開としては予想の範囲内というか、新しさに欠ける印象を受けました。 サイタマが介入して大乱闘に発展するくだりは迫力があるし、動きのあるシーンはさすがの画力で見応えがあります。ただ、キャラクターの掘り下げよりもアクションシーンの連続になってしまっているせいか、読んでいて心に残るものが少なかったんです。 人間関係のドラマと派手なバトルシーンのバランスが、この巻に関してはちょっと傾いてしまっている気がします。超能力組織「ツクヨミ」というものが登場しますが、その設定もまだ掘り下げ不足で、もったいないなと感じました。 シリーズとしては十分楽しめますが、特別な高みを感じることなく終わった、という感じですね。次巻への期待は持ちつつも、今回は「ふつう」というのが正直な評価です。
2026年05月21日
江戸時代の知識人による紀行文ということで手に取ってみました。司馬江漢という画家が実際に見聞きした長崎や生月での経験を、等身大の言葉で記録した作品です。 正直に言うと、期待値が高かったぶん少し物足りなさを感じてしまいました。確かに、当時の日本がどのように機能していたか、庶民がどう生きていたかという情報は興味深いです。出島への潜入や捕鯨の島での見聞は、教科書では学べない貴重な体験記です。自筆本を忠実に翻刻した版ということで、原文の息遣いを感じられるのは良い点。 ただ、紀行文としての面白さという点では、個人の主観や洞察が物足りない印象を受けました。「何があったか」という事実の羅列になっているパートが多く、著者の深い考察や独特の視点がもっと前に出ていたら、という感じです。同時代の他の知識人の著作と比べると、やや地味に感じてしまいます。 歴史や江戸時代に強い関心がある人には価値のある一冊だと思います。ただ、紀行文の傑作を求める読者にとっては、やや期待と異なるかもしれません。
2026年05月06日
毎日の知的刺激を求めていた時に出会った一冊です。 『The Intellectual Devotional』は、字通り一年365日分の知識と思考の挑戦が詰まっています。歴史、文学、哲学、科学など、幅広い分野から厳選されたテーマが、毎日短いエッセイの形で提示される構成。退屈なフリーター生活の中で、これほど効率的に教養を深められる本は珍しいと感じました。 特に素晴らしいのは、各テーマが「読破しろ」という圧迫的なスタイルではなく、「毎日の思考の栄養」として設計されている点です。朝の支度の時間に数分読むだけで、その日一日の視点が少し豊かになる感覚があります。著者の知識の深さと、それを分かりやすく咀嚼する力に感銘を受けました。 ただし、英語の新書という特性上、日本語で学べば十分なテーマも多いため、完璧さには若干の減点です。けれど、西洋の知的伝統を直接学びたい人にとっては、これ以上なく価値のある投資になるはずです。読書家としての知的好奇心を満たす良質な一冊でした。
2026年03月26日
旅行ガイドとして実用的かもしれませんが、正直なところ物足りません。 確かに、持ち運びやすいサイズで電子版も付属しているなど、実用面での工夫は感じられます。ノートルダム大聖堂の再開情報など、タイムリーな情報も魅力的。でも、内容がやや浅く感じるんですよね。王道観光地の説明に終始していて、パリという都市の深さや文化的背景を掘り下げた記事が少ない印象です。 フリーターの身で旅費を貯めるのは大変なので、限られた予算で行くときこそ、人混みを避けた隠れたスポットや、本当に価値のある体験について知りたいんです。でも、この本は「7つのしたいこと」という枠組みから出ていない。もっと多角的な視点や、パリを深く理解するための背景知識があれば、訪問がより豊かになるはず。 旅慣れていない人には十分かもしれませんが、旅先でも自分で本を読んで考えを深める癖がついている私には、少し物足りないガイドでした。
2026年03月15日
『舟を編む』を読み終わって、しばらく余韻に浸っていました。 この本は、辞書編集という一見地味な仕事を題材にしているのに、なぜこんなに心が温かくなるんだろう。登場人物たちが言葉一つひとつと真摯に向き合う姿勢が、本当に素敵です。特に主人公の馬締が、営業部で「変人」扱いされていたのに、辞書編集部で自分の才能を花開かせる過程には、思わず応援したくなります。 印象的だったのは、チームメンバーそれぞれが「言葉」という共通の目的で繋がっていくところ。年代も背景も違う人たちが、一冊の辞書を完成させるために協力する物語として描かれているんですが、これって実は人間関係の本質を描いているんじゃないかと感じました。 フリーターの自分も、何か一つのことに没頭できる喜びがあります。この本を読むと、その大切さをあらためて思い出させてくれます。地道な作業の積み重ねが、やがて大きな成果になるという希望も感じられて。 単なる仕事小説ではなく、人生について考えさせられる素敵な一冊です。
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