fujiの本棚
感想

警察小説の傑作がここにある。『朱夏』は、妻の失踪という事件を軸に、刑事である夫と被害者である妻の両視点から物語が進行していく、巧妙に仕組まれた構成が秀逸だ。 管理職として日々部下と向き合う身として、樋口警部補という誠実さで事件を解決してきた男の姿が深く響いた。その信頼と実績があるからこそ、妻も「きっと助けてくれる」と信じられるのだろう。人間の本質的な絆が、警察ドラマとしての緊張感の中に層状に積み重なっていく。 双方の視点から真相が浮かび上がっていくプロセスは、ミステリとしても高度な手腕を感じさせる。序盤から伏線が張られており、読み進むにつれ その繊細さに気付かされる。本格警察小説という謳い文句は決して誇張ではない。 最近の話題作の中でも、特に完成度の高い一冊だと考える。ページをめくる手が止まらず、一気読みしてしまった。職場のストレスから逃れたい時、人間ドラマとしてじっくり味わいたい時、どちらの読書欲求にも応えてくれる傑作である。

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