健太の本棚
その扉をたたく音

その扉をたたく音

瀬尾 まいこ 集英社 2021年2月26日

感想

瀬尾まいこのこの作品、本当に良かった。老人ホームという舞台で、人生に行き詰まった青年と人生経験豊かな大人たちが音楽を通じてつながっていく様が、こんなに温かく描けるんだなって感心しました。 29歳で無職、ミュージシャンの夢を手放せずにいる主人公・宮路への感情移入は自然で、フリーランスという立場の自分も「あ、ここわかるな」って思う瞬間が何度もありました。彼がサックスの演奏に惹かれて老人ホームに通うようになる流れも、退屈な日常に突然光が差し込むようなリアリティがあります。 何より素晴らしいのは、登場人物たちが人生の異なる段階にいながらも、互いに響き合えるんだという描き方。決してセンチメンタルに走らず、でも確かな希望が感じられるのは瀬尾まいこの筆力あってこそだと思います。読んでいて「人生ってまだ何かが起こりうるんだな」って静かに励まされる感覚がありました。 気軽に読める長編としても、人生について考えるきっかけとしても、どちらの読み方をしても満足できる一冊です。