しんの本棚
感想

新社会人として働き始めると、時間に追われる日々の中で自分の人生について考える余裕が失われていく。そんな時に『徒然草』の第三巻を手に取ったのは、中世の兼好法師の思索に触れることで、心を落ち着けたいという思いからだった。 本巻の中核をなす第137段「花はさかりに」は、まさに評判通りの傑作だ。美しさの最盛期にこそ儚さを感じるべきという兼好の言葉は、現代を生きる我々にも強く響く。評価社会の中で「成功」を求め続ける生活を送る中で、その瞬間の価値を見落としていないかと問い直してくれる。 また、第175段の酒に関する段では、具体的な生活場面を通じて人間本性が浮き彫りにされており、実用的でありながら深い思索性を兼ね備えている。長短さまざまな段落の中には、単なる知識の羅列に見えるものもあるが、その行間に兼好独自の人生観や世界観が沁み込んでいるのが素晴らしい。 古典でありながら、社会生活の中で迷いや疲れを感じる現代人にこそ必要な一冊だと感じた。

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