bibliolifeの本棚
木挽町のあだ討ち

木挽町のあだ討ち

永井 紗耶子 新潮社 2025年9月27日

山本周五郎の傑作短編集『木挽町のあだ討ち』を読み終わった。教員として、人間の本質を描く作品に惹かれるが、この一冊はまさにそれだ。 表題作は、江戸の木挽町を舞台とした仇討の物語だが、単なる時代小説ではない。その夜を目撃した者たちの人生が浮かび上がり、世の中で居場所を失った人々がいかに繋がっているかが見えてくる。読み進むにつれ、最初に思い描いていた「立派な仇討」の意味が大きく変わっていく。その転換の妙と、人情の温かさが何とも清々しい。 周五郎の筆致は相変わらず端麗で、余計な描写がなく、しかし人物の心情だけは深く掘り下げている。教室で教える側として、人間の多面性や葛藤、そして他者を思う心の大切さが自然と伝わってくる作品は貴重だ。 直木賞・山本周五郎賞をダブル受賞した理由がよく分かる。今年読んだ本の中でも指折りの傑作である。話題作をチェックするなら、ぜひこれは外せない一冊だ。