雄一の本棚
新装版 夜中の薔薇

新装版 夜中の薔薇

向田 邦子 講談社 2016年2月13日

感想

久しぶりに良いエッセイ集に出会った。この本は、著者が人生の中で拾い上げた、ささいだけれど誰もが心に秘めている思いを、これ以上ないほど丁寧に言葉にしている。 「手袋をさがす」という冒頭のエッセイから引き込まれた。22歳の冬、気に入った手袋が見つからないばかりに風邪をひくまで諦めなかった若き日の著者。その話から何十年も経った今でも、彼女は「何かを探している」という。その何かが何であるのか、読み進めるうちに理解できるようになる。 仕事をしていると、人間関係の複雑さや社会的な圧力に押しつぶされそうになることがある。だが、このエッセイ集を読んでいると、著者の優しい眼差しに包まれているような感覚に陥る。一人ひとりの「ありふれた人生」に向けられた深い洞察と共感が、ページの隅々に満ちている。 新装版は文字が大きく、読みやすくなっているのも嬉しい。年を重ねた身には助かる配慮だ。著者が突然この世を去った後も、その言葉たちが読者の心に生き続ける理由が、この本を読めばよくわかる。

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