三浦の本棚
アイネクライネナハトムジーク

アイネクライネナハトムジーク

伊坂幸太郎 / 伊坂 幸太郎 幻冬舎 2017年8月4日

感想

仕事で疲弊した夜、ふと手にしたこの本に救われた。数々のレビューで「癒される」と評されていたから試しに読んでみたのだが、その評判は本当だった。 妻に去られたサラリーマン、声越しの恋に落ちる美容師、いじめの過去と向き合うOL——登場人物たちはみな、何らかの挫折や違和感を抱えている。けれど短編の中で彼らが見せる、不器用で小さな勇気が実に素敵だ。運転免許センターや駐輪場という日常的な舞台だからこそ、そうした瞬間が自分たちの人生にも起こり得るのかもと感じさせてくれる。 作者の筆は丁寧で、登場人物たちの心情が自然に伝わってくる。大げさな感動や無理な感情操作がなく、むしろ静かな温かさが心地よい。連作短編という形式も良く機能しており、各話が適度な長さで読みやすい。 ただし、淡い印象の話も含まれるため、強烈なストーリーを求める読者には物足りなく感じるかもしれない。実際、私自身、一部の短編はやや印象が薄く感じた部分もある。 それでも全体を通じて、明日への小さな希望を与えてくれるこの一冊は、人生に疲れた会社員にこそ読んでほしい作品である。