直木賞受賞作ということで手にしてみたのですが、思った以上に面白かった。等身大の女性ふたりの人生を描いているというのが、素直に心に響きます。 るり子と萌、対照的なふたりのキャラクターが実に良く描き分けられていて、読んでいて飽きません。女であることをどう生きるか、恋愛とどう向き合うか——そういった大事なテーマを、決して重くならないように書いてあるのが著者の腕だと思う。文庫本で気軽に読める長さというのも、このペースで楽しめる工夫なんでしょう。 江國香織による解説も素晴らしく、読了後に改めて本編を考え返すきっかけになります。新しい家族のあり方という側面も、現代を生きる私たちにとって他人事ではない。 62年生きてきて、女性のあり方について改めて考えさせられたというのは、この本が持つ力だと思います。直木賞の選考委員の目利きも納得できる一冊でした。
最近登録された他の本の感想
2026年07月06日
定年前のこの歳になって、こんなに一気読みしてしまった本は久しぶりです。『火車』、本当に素晴らしい。 失踪した女性の謎を追う刑事の視点で物語が進むんですが、最初は婚約者がなぜ逃げたのか、その理由が気になってぐいぐい引き込まれていく。ページをめくる手が止まりませんでした。自分の人生経験があるからか、登場人物たちの背景にある事情が身にしみて理解できるというか、人間の弱さや絶望みたいなものがリアルに感じられたんです。 特に印象的だったのは、カード会社や借金という現代社会の問題を通じて、一人の女性がどういう人生を歩んできたのかが少しずつ明かされていくところ。ミステリーとしての面白さと、人間ドラマとしての深さが両立している。派手な展開はないけれど、その分、真実にたどり着いたときの衝撃が大きい。 文庫本という気軽さで読み始めたのに、山本周五郎賞受賞作というのも納得です。還暦を過ぎた今だからこそ、この作品の良さが余計に分かるのかもしれません。おすすめできる一冊です。
2026年07月05日
大谷翔平選手で有名になった中村天風という人物について、ちょっと興味を持って手に取ってみました。明治生まれの思想家の教えを現代的な悩みに絡めて解説するという構成は、なかなか工夫されているなあと思います。 本書は「考え方」「Q&A」「実践」という三部構成で、分かりやすく整理されているのが良いですね。「心ひとつの置きどころ」といった天風の名言も、なるほどと納得できるものばかり。定年を迎えた身としては、人生観を改めて考える参考になりました。 ただ、正直なところ、特に目新しい発見があったかというと、そこまでではないというのが本音です。世間一般で言われている「ポジティブに考えましょう」「人生は自分次第」といった教えが、天風の言葉を通して改めて述べられている感じで、既に知っていることばかりという印象も拭えません。 悩める現代人に向けた問答コーナーは読みやすく参考になりますが、もう少し深掘りした内容があれば、もっと満足度が高かったと感じます。軽く読める自己啓発本をお探しでしたら、無難な一冊だと思いますよ。
2026年06月30日
文庫本で気軽に読めるということで手にしたのですが、思いのほか心に残る作品でした。大阪万博という懐かしい時代設定も良かったんでしょう。叶わなかった恋という誰もが心のどこかに抱えているテーマを、二十数年という長いスパンで丁寧に描いているんです。 若い頃に失った愛する人のことを、その後の人生でずっと引きずってしまう。そういう切実な思いが、あますところなく綴られています。読んでいて、自分もかつて経験した後悔や未練が甦ってくるようでした。重い話なのに、なぜか最後まで一気に読めてしまう力強さがあります。 年を重ねた今だからこそ、こういう究極のラブストーリーの良さが理解できるのかもしれません。人生すべてが思い通りに進むわけではないこと、そしてそれでも前に進んでいくしかないことが、そっと心に届く。涙が出そうになりました。気軽に読める文庫という形式も、こういう深い内容だからこそ、多くの人に届きやすいんだろうなと感じます。
2026年06月15日
プリースト、久しぶりに手に取ってみました。『不死の島へ』は昔から気になっていたんですが、ようやく読む機会に恵まれました。 著者が自らの人生における「鍵」だと語る本作、読んでみるとその言葉の重さが伝わってきます。物語の中で何度も繰り返される島との関係、そして主人公ピーター・シンクレアの執筆活動そのものが物語の根幹を成していく―その構造的な巧みさに唸らされました。 少々複雑な設定ではありますが、ゆっくりと世界に没入していくと、段々と魅力にとりつかれていきます。現実と虚構の境界線が曖昧になっていく感覚、執筆という行為がどんな意味を持つのか、そういった深いテーマが織り込まれているのに、決して難しすぎることもない。 嘱託の身だからこそ、こういう腰を据えた作品と向き合う時間が持てるのは幸せだなと改めて思いました。何度でも読み返したくなる、そんな一冊です。
2026年06月13日
最近、同年代の知人が資産運用の話を始めたので、この本を手にとってみました。正直なところ、貯蓄ゼロから1億円というタイトルには驚きましたが、著者のくらま氏が実際に経験したプロセスが段階的に説明されているのは分かりやすかったです。 「貯め方」「稼ぎ方」「増やし方」という三本柱の構成も、読者にとって迷いなく進めるように工夫されています。特に段階ごと(0から1000万、2000万など)にやるべきことが整理されているのは、実践的だと思いました。 ただ、嘱託社員として働く私のような立場から見ると、「手取り26万円」という設定は参考になるものの、実際に投資法を実行に移すには、ある程度の忍耐力と継続力が必要だなと感じます。金投資についての解説も興味深かったのですが、もう少し詳しく知りたかった部分もあります。 気軽に読める実用書ですが、魔法のような方法があるわけではなく、地道な積み重ねが大切だというメッセージは、むしろ安心できる印象を受けました。人によっては参考になる一冊だと思います。
2026年06月13日
文庫本のコーナーで目に留まったこの作品。ミステリーとしても、人間ドラマとしても本当に素晴らしい。孤独死の後始末という地味で辛い仕事をしている主人公グレイス・マクギルが、ミニチュア模型を通じて死者と向き合う姿勢に、まず心をつかまれました。 何気ない現場の共通点から未解決事件へとたどり着く過程は、緻密でありながらも読みやすい。スコットランドの古い街の空気感も漂ってきて、どんどんページをめくってしまいました。謎解きの爽快感もありますが、それ以上に、社会から忘れ去られた人々への優しい眼差しが印象的です。 後半の展開は予想を裏切る面白さ。犯人が誰かという純粋なミステリーの楽しさだけでなく、そこに至るまでの人間関係の複雑さ、時間が積み重ねてくるもの——そういった深みがある。気軽に読める文庫だからこそ、こういう傑作に出会えると嬉しい。ダークミステリーが好きな方なら絶対に後悔しない一冊です。
2026年06月12日
医療ミステリーというジャンルに惹かれて手に取った一冊です。悪魔だの謎の大型肉食獣だのという、一見ふざけたような設定なのに、これが実に綿密に構成されているんですよ。 天才医師・天久鷹央が、常識では説明のつかない事件を次々と解き明かしていく様は、まるで自分も謎解きの途中で引っ張られていくようなわくわく感があります。著者が現役医師ということもあってか、医学知識の説得力がしっかりしているんでしょう。ありえない容疑者という奇想天外な設定が、医学的な論理で見事に整合していく快感がある。 読み進めるうちに、最初は「こんなことあるわけないだろう」と思っていたことが、「ああ、なるほど」と膝を打つ。そういう喜びが詰まった作品です。文庫本のサイズも扱いやすいし、気軽に読み始められるのに、本格的な推理小説としての満足度もちゃんとある。嘱託の身で忙しない日々ですが、こういう一気読みできる良質なエンタメに出会えるのは、読書の楽しみですね。
2026年06月12日
この本を手にしたのは、アーサー王の物語の源流を知りたいという単純な興味からでした。正直なところ、ウェールズの古い伝承なんて難しいのではないかという先入観もありました。ところが、読み始めてみると、その懸念は杞憂に終わりました。 筑摩書房の完訳とあって、訳注が非常に丁寧です。神話時代の設定や登場人物の関係性がしっかり理解できるので、スムーズに物語の世界に入っていけます。何千年も前の言い伝えとは思えないほど、人物の営みや恋愛、冒険といった普遍的なテーマが息づいており、古さを感じさせません。 アーサー王伝説のルーツがここにあるんだなと実感できる喜びもありました。ペレドゥルの冒険談など、後世のロマンス文学へとつながる萌芽が随所に見られます。気軽に読む文庫本としては少し厚いですが、その価値は十分にあります。ウェールズの古き良き物語世界を堪能できる、実に味わい深い一冊です。
2026年06月10日
新潮文庫で見かけて、江戸の芝居町を舞台にした仇討の話ということで手にとってみました。直木賞受賞作と帯にも書いてあったので、どんな作品か読んでみたいという気持ちもありました。 仇討という古典的なテーマながら、その「真実」を巡る構成は確かに工夫されています。複数の人物の視点を通じて、あの夜に何が起きたのかが少しずつ明かされていく仕組みは面白い。山本周五郎らしい人情味もしっかり感じられます。 ただ、正直なところ、これといって心を揺さぶられるようなことはありませんでした。登場人物たちの境遇や想いには共感できるのですが、物語全体としての盛り上がりに欠けるというか。期待していた以上の驚きや感動がなかったというのが本当のところです。 気軽に読める文庫としては十分悪くない作品ですが、わざわざ誰かに薦めたいほどではないかな。名作と聞いて読むと、少し肩透かしを食らうかもしれません。それでも時間をかけて読む価値はある、そんな一冊です。
2026年06月09日
湖畔の洋館での謎解きイベントが予期しない事件へと転じていく――という設定に惹かれて手に取りました。確かに面白い着想ですし、作家の月島と刑事の美波という二つの視点から事件が描かれる構成も工夫されています。 ただ、読み進めていると、どうしても既視感が拭えません。サイコ・ミステリというジャンルの定番的な要素がきちんと詰まっているぶん、それ以上の意外性や深さを求めてしまうのかもしれません。トリックも登場人物の心理描写も、いわば「教科書的」な出来栄えという感じでしょうか。 文庫ということもあり、手軽に読める点は確かに魅力です。週末に一気読みするなら悪くない選択肢だと思います。ただ、この手の作品を何冊も読んできた身としては、もう一歩、何か心に残るものがあればなあ、と感じてしまいました。退職を控え、これからの読書時間を大切にしたいこの年代だからこそ、より精選して選びたいという気持ちも正直なところです。 無難に楽しめる一冊ですが、特別に薦めるほどではない、といったところでしょうか。
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