90年代のプログラミング技術書として、今読むと時代を感じますが、それでもなお価値のあるテキストだと思います。 FORTRAN77からFortran90への移行期を扱った本書の最大の強みは、言語仕様の進化を体系的に整理している点です。古い規格の制限を理解した上で、新しい機能がなぜ導入されたのか、どう活用すべきかが明確に説明されている。エンジニアとして、言語の背景にある設計思想を知ることは、実装力を高める上で本当に重要です。 初心者向けとしても上級者向けとしても機能するバランスの取れた構成で、プログラム例も実践的。ただし、現在のモダンなプログラミング言語と比較すると、構文の冗長性やデバッグの難しさを痛感させられます。それがむしろ、現代の言語設計がいかに進化したかを理解する教材として機能していますね。 科学計算やシミュレーション領域で今なお使用されているFORTRANの基礎を押さえるなら、この一冊で十分な知識が得られます。技術史的な価値も含め、確実な学習書です。
最近登録された他の本の感想
2026年06月20日
子どもがピアノを習い始めたのをきっかけに、教材選びの参考にと手にとってみました。 ピアノの学習教材としては、確かに工夫が凝らされています。従来のバイエルが右手主導になりがちという課題に対し、カノンを積極的に取り入れることで両手のバランスを整え、ポリフォニーへの段階的な導入を目指す――その指導理念は理解できます。子どもたちが親しみやすい日本語の曲名がついているのも、つかみとしては悪くありません。 ただ、実際に目を通してみると、個性的な工夫が感じられる一方で、曲ごとの完成度にはばらつきがあるように思えます。フィーリングや左右といった多様なアプローチは興味深いですが、それぞれが実際の学習の中でどの程度効果を発揮するのか、教材としての一貫性はどうなのか、という疑問が残ります。 エンジニアの性質として、システムとしての整合性や効率性を求めてしまうのかもしれませんが、もう少し理論的な説明があれば、教師や親にとってもより活用しやすいのではないでしょうか。悪くはない教材ですが、特に秀でた特徴があるわけでもなく、といった印象です。
2026年06月18日
フランクルのこの著作は、技術者としての私の思考回路をも揺さぶる一冊だった。アウシュヴィッツ収容所での極限状況を通じて、人間とは何かという根本的な問いに真摯に向き合う姿勢に、何度も読み進める手が止まった。 特に印象深いのは、単なる悲劇の記録に留まらず、その先にある人間の尊厳や意味の追求を描いている点だ。最悪の環境下でも、人間は自分の態度や選択を通じて自身を定義できるという洞察は、機械的に見えるエンジニアの仕事の中でも、実は無数の選択と責任が存在することを改めて気づかせてくれた。 1947年の初版から世代を超えて読み継がれている理由が、今回の読了で腑に落ちた。時代や立場を超えて通用する、人間理解の深さがあるからだろう。新版での加筆による現代性も感じられ、古典としてだけでなく、今この瞬間を生きる私たちにも問いかけてくる力を持っている。困難な時代だからこそ、多くの人に手にとってほしい傑作である。
2026年06月15日
エコロジーに関する自分の認識がいかに表面的だったかを思い知らされた一冊です。 環境問題について「正しいと思っていた行動」の数々が、実は企業や自治体の都合で作られた幻想だという指摘は衝撃的でした。エンジニアの視点から見ても、データに基づいた論理的な説き方が秀逸。レジ袋からリサイクルまで、私たちが「善い行為」だと信じてやってきたことの矛盾が、具体的かつ冷徹に暴露されます。 特に印象的だったのは、善意が利権構造を支えてしまっているという構図の解き明かし方。個人の努力ではなく、システムレベルでのアプローチの重要性に気づかされました。自分たちが実際の環境改善よりも「エコをしている気になること」に価値を置いていないか、厳しく問い直させられます。 新書という形式もちょうどよく、複雑な環境問題を整理しながら読み進められました。確証バイアスに陥りがちな現代社会で、これぐらい思考を揺さぶってくれる本の価値は非常に高い。エコロジーに関心のある人こそ、読むべき一冊だと思います。
2026年06月14日
森見登美彦の傑作を愛蔵版で改めて手に取る喜びは想像以上だった。エンジニアという理系の職業柄、文学作品は敬遠しがちだったのだが、この作品の緻密で論理的なプロット構成に引き込まれたことがきっかけだった。 20年前の初版からこれほどの時を経ても、京都という舞台設定と登場人物たちの会話の生き生きとした描写は色褪せていない。むしろ本編の緊密さが金箔押しと函入りという装丁で一層引き立つ。時間軸の複雑な配置、複数視点の巧みな交錯—これらの構造的な美しさに、思わず技術者的な観点からも感動を覚えた。 物語そのものの楽しさはもちろんだが、この永久保存版は本として所有する喜びが大きい。長く手元に置いて、何度も紐解きたくなる魅力がある。価値ある装丁で、ファンのために用意された配慮が心地よい。手にするたび、阿部寛の映画化版も合わせて思い出せるのは美しい相乗効果だ。
2026年06月12日
脳科学や心理学に基づいた子育て論ということで、エンジニア的な思考で期待して読みました。確かに一般的な「正解」とされている習慣が実は子どもの才能を阻害する可能性があるという指摘は興味深く、科学的根拠も示されています。 ただ、率直に言うと内容がやや既知のものが多かったというのが正直な感想です。親が子どもに期待しすぎること、先回りして決定してしまうことの問題性などは、教育心理学の領域ではもう定番的な議論。新書という限られた紙幅では、もう少し深掘りした分析や、より具体的で実践的なアプローチが欲しかった気がします。 構成は分かりやすく、サンプルコードならぬサンプル親子の会話例なども適切に配置されているため、読みやすさは確保されています。子育てのセオリーを科学的に整理したいという方には有用でしょう。ただ、すでに心理学や教育学の基礎知識がある読者にとっては、新鮮な知見が限定的だと感じました。 基本をおさえるには悪くない一冊ですが、著者のより詳しい論考を読みたいなら、長編著作の方が満足度は高いかもしれません。
2026年06月11日
久しぶりにフィギュア王を手に取ってみたのですが、期待値とのギャップに少し落胆してしまいました。 ウルトラマンオメガの完結特集ということで、設定資料やデザイナー視点の原色デザイン図鑑など、企画自体は興味深いものです。ただ、実際に開いてみると、内容のバランスが少し物足りなく感じます。怪獣図鑑のボリュームは確かにありますが、深掘りの感覚が薄く、ファンには既知の情報が多いのではないでしょうか。 また、他の特撮作品の情報も複数掲載されているため、メイン特集に対する集中度が散漫になっている印象を受けました。エンジニアとして細部へのこだわりを求める癖があるのかもしれませんが、せっかく「完結記念」という特別な企画なら、もっと深い考察やインタビュー内容の充実度があってほしかった。 資料性としての価値は確かにありますが、完結作品への思い入れがある方には少々物足りない一冊かもしれません。
2026年06月08日
俳句という限定的な表現形式から着想を得ながら、これほど豊かな物語世界を紡ぎ出すことができるのか—この本を読んでそう感じました。 収録されている各短編は、一見すると日常の片隅に落ちた小さな出来事のように見えます。でも丁寧に読み進めていくと、人生の転機や喪失、予期しない出会いが、深い洞察とともに浮かび上がってくる。技術的には自分の仕事とは全く異なる領域ですが、複雑な感情や状況をいかに簡潔に、かつ的確に表現するかという点では、エンジニアリングと似た緊張感を感じました。 特に印象的だったのは、各話が決して説教的にならず、読者に思考の余白を残している点です。「なぜこんなことが起きたのか」という問いを完全には解かずに、むしろそこに存在する諦観や静かな希望を描く。こういう書き方は、実は一番難しいんじゃないかと思います。 文庫化されたこともあり読みやすく、通勤時間の合間にも進められました。短編集としての完成度が高く、何度か立ち返りたくなる本です。
2026年06月07日
高名な科学者による壮大なビッグバン史であると期待して手に取りました。138億年の宇宙史から意識の誕生まで、というコンセプトは素晴らしく、その野心的な試みは十分に評価できます。 ただ残念ながら、執行の面で課題を感じずにはいられませんでした。各分野の知見を統合するという目標は理想的ですが、実際には個別の説明が浅く、かつ唐突に次のテーマに移行してしまう印象が拭えません。エンジニアの視点からいえば、複数のシステムを統合する際は、各要素の深さと全体の接続性のバランスが重要です。本書はどちらも中途半端になっている気がします。 また、「私」という意識へのアプローチが、最後まで明確に結実しないのも物足りない点です。序盤の約束が、後半に十分に応えられていません。リチャード・ドーキンスの推薦文は信頼できるだけに、なおさら期待値とのギャップが大きくなってしまいました。 学際的なアプローチの重要性は理解しますが、もう一段階の思考の深化か、論の圧縮が必要だったように思います。
2026年06月06日
神社参拝に関する実践的な知識を求めて手にしたのですが、期待値と現物のギャップを感じずにはいられませんでした。 本書は「正しいお参りの作法」「お札やお守りの活かし方」といった具体的で有用な情報を提供する点は評価できます。縄文時代からの伝統を紐解きながら、神社という空間の本質に迫ろうとするアプローチも悪くありません。 ただし全体を通じて、根拠の提示が曖昧な箇所が多く感じられます。「神氣と共鳴する」「心神の秘密」といった言葉は魅力的ですが、エンジニア的思考の自分には、なぜそうなのかという論理的説明が足りない印象を受けました。スピリチュアルな要素と実践的知識の配分も、やや前者に傾きすぎているように見えます。 信仰心の深い人や、神社文化をより感覚的に理解したい読者には響く一冊かもしれません。ただ、より学術的で体系的な神社論を期待していた自分にとっては、可もなく不可もない、という印象に落ち着いてしまいました。参拝の心構えを学ぶ入門書としては及第点ですが、深掘りを求める人には物足りないでしょう。
2026年06月06日
エンジニアとして論理的思考に慣れているはずなのに、記号論理学の世界に足を踏み入れると新しい視点が次々と開かれていく。この本はそんな体験をくれた。 著者の説明は極めて体系的で、基礎から段階的に進む構成が実に読みやすい。プログラミングやデータベース設計の経験が、記号と論理の関係性を直感的に理解するのに役立つのを感じた。形式言語やアルゴリズムに親しんでいると、ここで扱われる記号体系がいかに精密かがより深く伝わってくる。 ただ、後半に進むにつれて抽象度が上がり、章によっては読み進めるのに時間がかかる部分もあった。数式や論証例がもう少し豊富だと、さらに理解が深まったのではないかと思う。 それでも全体を通じて、人文学的な厳密性と実用性のバランスが取れた良い入門書だ。論理学の基礎を体系的に学びたい人、特に科学的思考に関心がある人にはぜひ勧めたい。知的な興奮を味わえる一冊である。
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