石井の本棚
新しい花が咲く

新しい花が咲く

宮部 みゆき 新潮社 2025年11月28日

感想

俳句という限定的な表現形式から着想を得ながら、これほど豊かな物語世界を紡ぎ出すことができるのか—この本を読んでそう感じました。 収録されている各短編は、一見すると日常の片隅に落ちた小さな出来事のように見えます。でも丁寧に読み進めていくと、人生の転機や喪失、予期しない出会いが、深い洞察とともに浮かび上がってくる。技術的には自分の仕事とは全く異なる領域ですが、複雑な感情や状況をいかに簡潔に、かつ的確に表現するかという点では、エンジニアリングと似た緊張感を感じました。 特に印象的だったのは、各話が決して説教的にならず、読者に思考の余白を残している点です。「なぜこんなことが起きたのか」という問いを完全には解かずに、むしろそこに存在する諦観や静かな希望を描く。こういう書き方は、実は一番難しいんじゃないかと思います。 文庫化されたこともあり読みやすく、通勤時間の合間にも進められました。短編集としての完成度が高く、何度か立ち返りたくなる本です。