三浦の本棚
感想

直木賞受賞作ということで、かなり慎重に選んで手に取った一冊だ。江戸の心町という舞台設定から、いかにも時代小説らしい重厚さが感じられたが、実際に読んでみると、その予想をいい意味で裏切られた。 本作は、人生の淀みに置き去りにされた人々の姿を、丹念に、そしてどこか優しく描いている。妾、飯屋の主人、行き倒れ寸前の老人……登場人物たちは社会の片隅で目立たぬ日々を送っているが、その内面には想像以上の深さがある。作者の筆致には、そうした小さな存在への敬意が貫かれていて、読んでいて心が動かされる。 何より素晴らしいのは、それぞれの短編が独立しながらも、心町という場所で緩やかに繋がっていく構成だ。最初は散文的に思えた各編が、やがて一つの織物のようにまとまっていく感覚は、実に秀逸である。 会社勤めで疲弊した日常から、つかの間、江戸の隠れた世界へ身を委ねられる。そうした時間の価値が理解できる年代だからこそ、このような傑作に出会えたことに感謝したい。

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