本と珈琲の本棚
感想

東日本大震災という重い背景の中で、一匹の野良犬が人間たちの人生にもたらす変化を描いた作品です。最初は重苦しい展開になるのかと心配しながら読み始めたのですが、予想を良い意味で裏切られました。 和正という主人公が苦境の中で多聞という犬と出会い、その関係が少しずつ変わっていく過程が実に丁寧に書かれています。犬というシンプルな存在が、傷ついた人間たちにどれほど大きな支えになるか、そしてまた犬自身も人間と関わることで何かを求め続けているという相互作用がいいですね。 南を向き続ける犬のなぞ、そして最後にその謎がどう解き明かされるのかという点で、ぐいぐいと引き込まれました。単なる感動的な動物小説ではなく、震災という時代的背景と絡み合って、深い意味を持つ物語になっています。犬との関係を通じて、人間が何を失い、何を取り戻すことができるのかが問いかけられているようでした。 文庫で気軽に読める長さながら、随分と心に残る一冊になりました。

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