石井の本棚
夜のピクニック

夜のピクニック

恩田 陸 新潮社 2006年9月1日

感想

本屋大賞受賞作とのことで手に取ってみたのですが、予想を大きく上回る傑作でした。80キロの夜通し歩行という設定だけを見ると、青春の爽やかさや友情の絆を描いた学園小説なのかと思いました。しかし読み始めると、その枠を軽々と超えている奥深さに引き込まれます。 主人公の貴子が胸に秘めた誓いと、彼女が歩行祭で何を求めているのかという緊張感が物語全体を貫いており、進むにつれてその背景が徐々に明かされていく構成が見事です。登場人物たちの会話が自然で、言葉の端々から高校生活の複雑な心理模様が浮かび上がってくる。何気ない日常の積み重ねや、友人関係の微妙なズレ、未来への漠然とした不安など、あの時期特有の感情が的確に描かれていて、技術的に優れた作品だと感じます。 エンジニアという仕事をしていると、分析的に物語を読む癖がついてしまいますが、この作品は構成の精密さと人間描写の温かさが両立している稀有な小説です。大人になった今だからこそ、高校時代に感じていた感情の複雑さが改めて理解できました。

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