のんちゃんの本棚
感想

東日本大震災をテーマにした小説というと、どうしても重い覚悟を持って読み始めてしまうのですが、この作品はそういった構えを優しく解きほぐしてくれるような不思議な魅力がありました。 植木職人・坂井祐治という一人の男の日常を通して、災厄後の人生がどのように変わっていくのか、そしてその変化とどう向き合うのかが静かに描かれています。「元の生活に戻りたい」という願いが、実はどれほど複雑で切実なものかが胸に響きます。 仙台在住の著者だからこそ書ける、地に足がついたリアルさが素晴らしい。派手な劇的さはないけれど、読み進むにつれて主人公の痛みや渇きが自分の中にじわじわと浸み込んでくるような感覚。会社員として日々の仕事に追われる私たちにも、何かを失い、それでも歩み続けることの意味が問いかけてくるようでした。 人生の重みを感じさせながらも、決して絶望的にならない、そのバランス感覚がこの本の真骨頂だと思います。芥川賞候補作の実力、十分に納得できました。